5505 小沢氏、政治生命を賭けた「最終決戦」へ 花岡信昭

*鳩山・小沢両氏の神経戦が政局の裏側に
民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反疑惑で、検察審査会は「起訴相当」を議決した。
予想されたことではあったが、これで検察審査会がもう一度、同じ議決をやれば、強制起訴によって小沢氏は法廷の場に引っ張り出されることになる。
普天間問題の「不手際」とともに、「政治とカネ」の問題が改めて突き付けられ、鳩山民主党政権はいよいよ危機的状況を迎えた。
それも、検察審査会は鳩山首相の「巨額子ども手当」疑惑については「不起訴相当」を議決しているから、政府与党の両首脳の金権スキャンダルとしては、そういってはなんだが、鳩山首相のほうは免罪符が与えられたというイメージを強めている。
そのあたりの鳩山、小沢両氏の複雑な神経戦が今後の政局の裏側に存在することを認識しておくべきだろう。小沢氏にとって、その政治人生のすべてをかけた「最終決戦」の場がやってくるといっていい。
昨年の「西松事件」の際は、元秘書が逮捕されて2カ月後の5月連休明けに党代表を辞任した。世間があっと驚くタイミングで出処進退を決めるというのが「小沢流」でもある。
昨年の場合は、小沢氏の作戦が見事に当たった。 後継代表を決める「鳩山―岡田対決」で、小沢氏が推した鳩山氏が勝って代表の座を射止め、小沢氏は選挙担当の代表代行に就任、衆院総選挙の圧勝を導いたのは周知の通りだ。
その再現があるのかどうか。
*実態は「党高政低」より「小高鳩低」に近い
支持率20%割れも目前と見られる鳩山政権だが、参院選前のタイミングで、鳩山、小沢両氏とも、あるいはいずれかが(その場合、小沢氏辞任の可能性が濃くなったというのが「起訴相当」がもたらす印象だ)辞任し、新体制で参院選に臨もうとするのか。
昨年の代表辞任劇を思い出す。小沢氏は涙の記者会見を行ったが、そのあと、秘書たちと居酒屋に出かけ、関係者によれば「してやったりと、ほくそえんでいた」という。
「起訴相当」の議決を受けて、「やましいところはない」と続投の意向を述べた小沢氏は、そのときと同様に側近たちと居酒屋に出かけている。
奈落の底に突き落とされたように見せておいて、不死鳥のごとくによみがえるというのが、これまた「小沢流」である。 鳩山政権は小沢氏によって出来上がったのだという事実を改めて想起する必要がありそうだ。
これもまた関係者によれば、小沢氏は民主党の幹部たちが「バカ、アホ」に見えて仕方ないのだそうだ。 かつて小沢氏は自民党時代に「担ぐミコシは軽くてパーがいい」といったとされる。その時と同様に、小沢氏は鳩山首相をはじめ政権、党の幹部たちを完全に「呑んで」いるのである。
この力関係は、小沢氏がこういう境遇に置かれても、なお基本的には変わらない。鳩山首相は「党のほうでなにか判断がなされる可能性はある」と述べるのがやっとだった。
ガソリン税の暫定税率維持や高速道路の料金問題で、小沢氏は官邸に乗り込み、政府方針を覆した。「党高政低」、というよりも「小高鳩低」のほうがより実態に近いと思われるが、そうした力関係の落差が厳然として存在するのだ。
*「第3極新党」の支持がじわっと広がる
前回コラムでも分析したように、参院選というのは、民主―自民の対決が基本構図である。 ごく大くくりにいってしまえば、改選数121のうち、おおよそ100議席を民主、自民で争う。残りの20議席程度が、公明、社民、共産、国民新党などの取り分である。
これは過去3回の参院選を振り返ると、よく分かる。民主―自民の獲得議席は、2007年「民主60-自民37」、2004年「民主49-自民50」、2001年「旧民主26、自由8-自民62」であった。
これに公明が10議席程度あり、残り10議席ほどをそのほかの政党が獲得している。
新党発足ラッシュによって、そちらのほうにばかり目が行ってしまうが、新党に民主、自民なみの大量議席獲得の能力が備わっているかというと、そうではないことを改めて認識する必要がある。
日本経済新聞、テレビ東京の最新世論調査(23-25日実施)によれば、内閣支持率は前回から12ポイント下落して24%だ。民主党の支持率は6ポイント下落して27%、自民党は2ポイント下落で21%。参院選比例代表の投票先としては、民主20%、自民14%だ。依然として自民党は鳩山民主の支持離れ票を吸収できていない。
興味深いのは、第3極新党の支持がじわっと広がっていることだ。
比例投票先を見ると、渡辺喜美氏のみんなの党11%、舛添要一氏の新党改革7%、平沼赳夫、与謝野馨両氏のたちあがれ日本2%で、3党の合計が20%に達した。
この3党はいずれも自民党から分かれた勢力である。となると、民主離れ票を吸収するのか、自民離れ票の受け皿となるのか、微妙な要素が残る。
*公明と連立すれば民主は38議席で過半数に
民主、自民で100議席を争う選挙と前述したが、新党はこの部分を食い合うことになる。
首長連合の日本創新党を除いて、以上の3党は「反民主」が共通項である。与党に参院過半数を維持させないということが最大の眼目となる。
与党の非改選議席は民主62、国民新3、社民2、新党日本1だ。合計68議席。与党の枠組みに変化がないとすれば、与党勢力で54議席獲得すれば、過半数の122議席を維持できることになる。
一方、公明党は非改選10、改選11、現有議席21である。民主党は過半数維持のために必要となれば、公明党との連立に踏み切る可能性が高い。
となると、新党の目標は、公明党を加えても過半数に達しないほどに民主党議席を押し下げるラインに設定する必要がある。 仮に公明党が10議席程度獲得し、国民新、社民などの与党が現状維持の場合、民主党が38議席程度なら、公明党との連立によってかろうじて過半数維持が可能になる。
これを38議席から大きく下落させることができれば、新党の「反民主」戦略が達成されることになる。別の角度からいえば、新党合わせて公明党の議席を超えなくてはならないのだ。
日経、テレビ東京の世論調査で新党3党への投票が20%に達している(公明党は4%だ)ことを踏まえれば、そうした状況は十分に想定できる。
現在の与党に公明党が加わるだけで過半数維持となれば、政局展開は比較的たやすいともいえる。それが、新党が入り乱れて、さまざまな組み合わせを考えないといけない事態になった場合、政界再編に直結するダイナミックな展開が一気にやってくる。
*指南役・金丸氏の摘発が小沢氏のトラウマに
これが発展すれば、大連立、中連立という構図となる。場合によっては自民党の一部を巻き込むことにもなりかねない。
民主党内に小沢氏の幹事長辞任を求める声が高まらない理由は、選挙後のそうした複雑な攻防戦をしのぐには小沢氏の「剛腕」なくしては無理という判断があるためでもある。
検察審査会の議決では、小沢氏を「絶対権力者」と表現し、「市民感覚」「市民目線」といった言葉を使っている。 その情緒的な受け止め方がどうにも気になるところだ。
というのは、「陸山会」の土地購入疑惑は、「市民団体」による告発事件である。検察当局は告発を受理したら、起訴、起訴猶予、不起訴のいずれかの結論を出さなければならない。
ゼネコン各社が捜索を受けるなど、小沢氏をめぐる「公共工事発注疑惑」の様相が濃い印象を強めたのだが、法的にいえば、土地購入をめぐる疑惑の告発事件にすぎず、検察の不起訴決定はその枠からはみ出たものではない。
検察審査会の議決を受けて、検察当局は3カ月(6カ月までの延長できる)以内にもう一度、方針を決定しなければならない。おそらくは参院選後になるだろう。
となれば、小沢氏がこのまま幹事長続投を果たし、世間の批判が弱まることも予想されないわけではない。世論は移り気である。小沢氏にとって、もっと警戒すべきは、国税当局が乗り出す事態である。
小沢氏の指南役だった金丸信氏は、議員辞職後、国税当局に摘発された。 この前例から、政治権力が弱まったと見ると摘発されるという恐怖感が小沢氏のトラウマになっているという指摘がある。
小沢氏はその政治権力をどこまでも維持しなければならない立場に追い込まれているといっていい。小沢氏にとっての最終戦争という意味合いは実はそこにある。
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