鳩山首相の辞任の表明をアメリカはどう受けとめたのか。
■鳩山首相辞任への本音
鳩山由紀夫首相の辞任を米国はどう受けとめたのか。ほっとしたのか、がっかりしたのか。ただし米国といっても多様である。
オバマ政権の当局者たちに関する限り、藤崎一郎駐米大使によれば「ほっとした感じはまったくない」ということになる。
確かに鳩山氏は焦点の普天間問題に関して究極的には年来の日米合意の辺野古移転案に賛成したから、この合意の履行を一貫して求めたオバマ政権としては鳩山首相のままでももう支障はないのかもしれない。
だが同政権高官たちのこれまでの非公式な鳩山評は「ルーピー」という言葉に集約されている観があった。同盟相手のそんなトップが代われば、ほっとするのが自然な心情だろうが、本音を公式の場で表せるはずもない。政権をちょっと離れると本音らしき安堵(あんど)の反応はふんだんにうかがわれる。
米国の日米安保専門家では民主党寄りのジム・プリシュタップ国防大学教授が語った。
「鳩山首相の就任当初の言動を理論的に延長していけば究極は日米同盟崩壊しかなかった。だがその日米同盟の強固さに鳩山首相が弾かれて、逆に崩壊したのだ。どうみても実行できない公約にこだわり、自分自身を追い込んだ鳩山氏の辞任は私は4月に訪日したときからうすうす予期していた」
この言葉はどうみても鳩山辞任にほっとした人の感想である。
共和党のジョン・マケイン上院議員の外交顧問を長年、務めたダニエル・トワイニング「米独マーシャル基金」アジア専門上級研究員も同様の見解を明らかにした。
「鳩山辞任は彼自身が年来の日米合意に反対することで自ら作り出した日米関係の危機が原因だと思う。鳩山氏は日米同盟をめぐる両国の国内政治の現状を読み誤ったのだ。米国はもちろん日本側でも一般国民の大多数が同盟堅持を望んでいる。鳩山氏は米国だけでなく日本側のこの世論をも敵に回してしまった。日米関係の強固な保持という政治的論理が目前の政治利益のための反米姿勢を押しつぶしたことは朗報だといえる」
この言葉は鳩山辞任に、ほっとしているどころか、はっきりと喜んでいるといえよう。
類似の趣旨を民主、共和両党政権下の国防総省で日本問題を担当してきたジム・アワー・バンダービルト大学日米研究協力センター所長が「鳩山氏はトラの尾を踏んだといえるかもしれない」と述べ、どきりとする角度から説明した。
「これまでの日米安保関係では米軍側はアジアでの有事に対して、『ジャパン・インかジャパン・アウトか』という課題に悩まされてきた。有事の米国の軍事行動、戦闘活動に対し、日本は同じ味方の陣営内部に入るのか、入らないのか、という予測だが、『アウト』という最悪の場合でも日本国内の米軍基地の使用だけは許してくれるという共通認識があった。だが鳩山首相の当初の一連の発言は日本側がその基地使用をも拒むという懸念を米側に生んだのだ」
日米同盟へのその種の認識は民主、共和両党が超党派で共有してきた。鳩山首相はその米側の共通認識を踏みにじるかにみえたため、オバマ政権の反発も激しくなったというのである。
「残念ながら鳩山氏は米側関係者の間では日米同盟に関してホラブリー(恐ろしいほど)に無知で単純だと思われてしまった」
まさに残念ながら、アワー氏のこんな総括が米国側の鳩山首相辞任への最も本音らしい反応だといえそうなのである。(ワシントン駐在編集特別委員)
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5707 鳩山辞任へのアメリカの本音の反応は? 古森義久

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