5730 張成沢副委員長が北のナンバー・ツウ 古沢襄

北朝鮮の権力構造は一九九八年九月五日に大きく変わった。それまでは最高国策決定機関であった党政治局から共和国国防委員会が北の最高実権機関となった。金正日総書記の肩書きは共和国国防委員長。軍事がすべてに優先する北朝鮮の国家形態が固まっている。
この共和国国防委員会のナンバー・ツウは第一副委員長の趙明録氏である。しかし一九二二年生まれの趙明録氏は八十八歳、高齢なうえに最近では病気がちと言われている。そこで三人いる副委員長の中で事実上のナンバー・ツウとみられたのが、金正日側近の金永春氏。一九三二年生まれの七十八歳。軍部のトップである国防相である。
その三人の副委員長の一角に張成沢(チャン・ソンテク)氏が四人目の副委員長として登場した。韓国の朝鮮日報は張成沢氏こそが北朝鮮のナンバー・ツウだとしている。金正日総書記が溺愛する実妹・金敬姫氏の夫で、金正日後継と目されている三男ジョンウン氏の後見人としても知られている。金王朝に深く入り込んでいる張成沢氏は、北の軍部にも支持者を拡大しているという。
<金正日(キム・ジョンイル)総書記の妹の夫、張成沢(チャン・ソンテク)国防委員(64)=朝鮮労働党行政部長を兼任=が7日、最高権力機関である国防委員会の副委員長に任命され、この結果、張成沢氏が北朝鮮のナンバー2であることが改めて確認された。張成沢氏は金総書記の三男ジョンウン氏の後見人としても知られている。
北朝鮮の事情に詳しい消息筋は、「北朝鮮は張成沢氏を、国防委員就任からわずか1年で副委員長に昇進させ、その側近・朴明哲(パク・ミョンチョル)氏(69)も体育相に任命した。これは、張成沢氏を中心とする後継体制を強化する意図があって行われたものだ」と分析する。
国防委員会副委員長のうち、呉克烈(オ・グクリョル)氏は韓国担当、金永春(キム・ヨンチュン)氏は軍部、李用茂(リ・ヨンム)氏は軍需、張成沢氏は内政を担当しているとみられている。
治安政策研究所のユ・ドンリョル選任研究官は、「張成沢氏は長兄チャン・ソンウ次帥(2009年に死亡)と次兄チャン・ソンギル中将(06年死亡)が築き上げてきた軍内部の人脈がしっかりと機能しているため、軍部の中にもかなりの支持勢力を持っている」と述べた。ファン・ジャンヨプ元朝鮮労働党書記も2003年、「金正日体制が崩壊した場合、後を引き継ぐことができるのは、現時点では張成沢氏が最も有力だ」と発言している。
そのため韓国政府の関係者は、「金総書記が早期に死去した場合、張成沢氏が実権を握る可能性がある」と分析する。まだ20代後半と若いジョンウン氏が、金総書記の死後に実権を握ることができない場合には、張成沢氏に権力が集まる以外にないということだ。
張成沢氏は08年8月に金総書記が脳卒中で倒れたとき、金総書記の病床を守りながら、事実上の「代理統治」を行っていたという情報もある。
とりわけ今月2日には、張成沢氏の最大のライバルと目されていた李済鋼(リ・ジェガン)朝鮮労働党組織指導部第1副部長が交通事故で急死し、それ以後はライバルもいなくなっている。李済鋼氏は北朝鮮の権力をあやつる朝鮮労働党組織指導部で37年にわたり勤務し、ジョンウン氏が後継者となるに当たって大きな役割を果たしたと言われている。李済鋼氏と共に組織指導部にいた李容哲(リ・ヨンチョル)第1副部長も、今年4月に心筋梗塞で死亡した。
北朝鮮の消息筋は、「1970年代にはキム・チャンボン民族保衛相が金総書記の世襲に反対し、交通事故で死亡した。証拠はないが、李済鋼氏の死も権力争いと関連がある可能性が高い」と話す。
とりわけ李済鋼氏は、04年に当時の張成沢・組織指導部第1副部長を先頭に立って失脚させたため、張成沢氏とは非常に仲が悪い。李済鋼氏が、張成沢氏のナンバー2への出世5日前に突然死亡したことについて、韓国政府の安全保障関連部処(省庁)関係者は、「非常におかしい」とみている。
当時、張成沢氏と共に失脚した朴明哲・朝鮮体育指導委員長は、この日に体育相に復帰した。これについても、「張成沢グループが復活した」という見方が大勢を占める。
朴明哲氏は日本でプロレスラーとして活躍した力道山(本名:金信洛〈キム・シンラク〉)の娘婿だ。朴明哲氏の父、パク・ジョンホ氏は金日成(キム・イルソン)主席が韓国に送ったスパイだったが、韓国で逮捕され、59年に死刑となった。このような理由から、金日成・金正日親子は朴明哲氏を気にかけていたという。
一方、張成沢氏の権力掌握については慎重な見方もある。中央大学のイ・ジョウォン教授は、「独裁権力の属性からして、金総書記は絶対にナンバー2の存在を認めないだろう。張成沢氏も金総書記のそのような考え方をよく理解している」と話す。張成沢氏はすでに2回、失脚を経験している。(朝鮮日報)>
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