5813 評判の悪い男・李鵬の回想録の出版が見送り 宮崎正弘

李鵬(元中国国務院総理)の『六四回想録』、突然出版を中止。息子の李小鵬が山西省の常務副省長に出世と取引説もあるが。李鵬は評判の悪い男だった。
ソ連留学、共産党の権威を振りかざし、天安門事件では血の弾圧を主張した張本人として民主派の敵、国民の怨嗟の的とされ、海外でも評判は低い。
それゆえ対照的に趙紫陽の評判が実力以上にたかくみられ、温家宝はその恩恵にあずかって評判がすこぶる良い。李鵬を反面教師として、庶民派のイメージを腐植するコツを温家宝は体得したからだろう。
さて李鵬は三峡ダムの推進者としてもしられ、軍の評判も悪かった(人民解放軍が三峡ダム建設に反対したのはインドが攻撃した場合、脆弱で下流全域が洪水となるためだ)。しかし、中国の電力利権をにぎる李鵬にとっては死活的プロジェクトだった。
天安門事件前後に、ときの首相=李鵬に対して、ジミー・ライは言った。『李鵬の頭は亀の卵だ』(なにも考えていないという軽蔑の形容)。ジミーは香港で「りんご日報」を出し、ファッションのジョルダーノ(中国版ユニクロ)を経営、中国でもいくつかのチェーン店を展開していた。ジョルダーノは放火され、けっきょくジミーは、ジョルダーノを売却せざるを得なかった。
学生運動の主役だったウアルカイシは言った。「李鵬がもっとも学生運動に理解がなかった」。
さて李鵬の回想録『六四回想録』は香港で二万部が初版で用意され、発売直前だった。なかみは『天安門の弾圧は私が命じたのではない、トウ小平だ』という釈明に溢れたもの、と言われ、そういう言い逃れの表現がいかになされるか、チャイナウォッチャーの間には興味津々、発売が待たれていたのである。
ところが6月21日、突然、香港での出版が見送られる。同じ日に息子の李小鵬が山西省の副省長から常務副省長への昇進が伝わった。李鵬は成都生まれで、米国留学。ビジネスに通じ、観光業にも意欲を示すが、国民の評判は悪い。現在51歳。
だから李鵬回想録の出版中止は、この人事との取引とする観測が有力だが、さて?
というのも、李小鵬は湖南省副書記をねらって猟官運動を展開していた形跡があり、すくなくとも湖南省長に昇格という噂が流れた(博訊新聞網、4月24,25日)。
湖南省といえば毛沢東の故郷、李小鵬がもし省長ということであれば、団派からは周強が省書記に任命され、両派のバランスをとる人事が予測された。
ところが『省長』は見送られ、現職の副省長に「常任」が付いたくらい。これを出世とみるか、馬鹿にされたと見るかは、内部の権力闘争の評価により見解が分かれるだろう。李小鵬のいる山西省は仏教観光の名所、五台山をひかえ、北の大同は石炭ビジネスの中心、北京にも近い要衝である。
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