5850 中国を国政の場で調べ、論じよう 古森義久

アメリカでは中国についての調査や研究がきわめて盛んです。急膨張する中国が自国に与える大きな影響を多角的に調べて、それに対する効果的な対策を講じようという認識からです。こうした対中姿勢はいまの日本にこそ必要です。
■「中国論議」が必要なとき
7月から日本では中国人の姿がまたいちだんと目立つようになるのだという。中国人の観光客受け入れが大幅に緩和されるからだ。日本への中国の影響が陰に陽にまた増大することだろう。
日本にとっての中国の意味を国として体系的に考える時機がもうとっくにきていると思う。この点では米国の実態が参考となる。
国政の場でも、民間でも、中国の研究が盛況を極めるのだ。しかも焦点はみな自国にとって中国の活動がなにを意味し、なににどう影響するのか、である。
不透明な大国の動向をまず徹底して調べ、そのうえで対策を考えるという動きなのだ。そういう中国対策の代表的な活動が6月30日にも連邦議会で展開された。
議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が朝から夕まで長時間の公聴会を開いたのだ。この日の主要論題は中国の「国家機密」の扱いだった。
もちろんそれが米国にどんな影響を及ぼすかが中心論点となる。私はこの委員会の活動をもう10年ほども取材し、報道してきた。活動がスタートしたのが2001年である。
中国総局長という職務を終えてワシントンにその年のはじめにもどった私にとって、同委員会はわくわくするほど豊富な情報や鋭利な分析を産出していた。
超党派の主要議員が任命する中国関連各分野の専門家12人を常勤委員とするこの組織は「米中経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響を調査する」ことを主目的とする。
現実には中国の経済、政治、軍事、金融、エネルギー、情報管理まで広範な領域に踏みこみ、独自の調査とともに、公聴会を頻繁に開いて、特定分野の専門家を証人に招き、見解を聞く。
日本のような「友好」や「贖罪(しょくざい)」という情緒はツユほどもみせず、自国の安全への影響の調査という実利探求に徹する姿勢が基本にみえる。超党派だから時の政権の対中政策も遠慮なく批判する。
そして調査の結果は政府と議会へ対中政策案として勧告する。この米中経済安保調査委員会は米国の官民を通じ中国研究では質量ともに最高の機関だといえる。
私自身、その活動を長年、追って、この委員会は全世界でも公開の中国研究・調査組織ではトップに位置するように思える。日本の国会や政府でも活動の現状を指針にしてみるべきだと強く思う。
さて同委員会の最新の公聴会は正式には「中国の情報管理慣行とその米国への意味」と題されていた。だが実態としては中国の「国家機密保持法」の不透明で恣意(しい)的な適用に批判的な光を当てていた。
米国の株式市場に上場された中国の企業は米国証券取引委員会(SEC)への情報開示が義務づけられる。だが本国の国家機密保持法により明かせないとする領域が多い。
とくに国有企業の場合、共産党から送りこまれる経営陣の正体、国有銀行から注がれる不明確な資金などが開示されないことが多く、米国株式市場での投資側には不公正かつ危険だというのだ。
中国内で活動する米国企業にとっても中国側の国家機密保持法は危険な凶器となる。経済や商業での情報取得を国家機密の不法入手と断じられかねないのだ。
オーストラリア系の鉱山資源企業リオ・ティント社の上海駐在代表への有罪宣告がその警鐘だった。公聴会では議員、SEC代表、中国法の権威を中心に終日、熱い議論が繰り広げられた。その展開を傍聴しながら、日本でもこの種の中国論議が必要だと痛感したのだった。
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