5865 中国のNPT条約違反を見過ごす米国 宮崎正弘

中国がパキスタンへ新たに原子炉を二基供与するが、これはNPT条約違反。米国は反対もせず曖昧に状況を見過ごす構え、パキスタンを刺激しない理由は?
アフガニスタン戦争の新司令官として赴任したペトロウス将軍は各地でつめたい歓迎を受けている、と欧米各紙が伝えている。
米国のパキスタン重視はアフガニスタン戦争の重要な兵站基地、出撃拠点。さらに国境にいるタリバンの征討作戦にはパキスタン軍の協力が欠かせない。したがって米国がパキスタンと正面から敵対することはあり得ず、その背後にいる中国の鵺的な動き(マヌーバー)にも曖昧となる。
六月末にニュージーランドで開催された核物質供与グループの会合(NSG)は、中国があらたにパキスタンに供与しようとしている原子炉二基に対して反対の意向を表明した。これは「あきらかに核拡散防止条約(NPT)に違反する」からである。
 ところが米国は深い関与を避け、曖昧な態度に終始した。
 米国務省フィリップ・クローレィ報道官は「民間の動きであって関与するタイミングでもないし、米国としては次の具体的な供与計画を中国から聞く」と投げやりな答弁を繰り返した。
「核拡散防止条約に抵触する、明らかな違反行為だからNGSは反対するが、米国の態度がこれでは中国のパキスタンへの核輸出を阻止することはできないだろう」とカーネギー財団のシニア・アソシエート=マーク・ヒッビスはコメントしている(アジアタイムズ、7月2日付け)。
こうなると米国はNPT条約そのものに懐疑的であり、そもそも05年に印度に対して米国が核技術を供与してパキスタンとバランスをとらせているのも、厳密には同条約違反であり、イランのアハマドネジャッド大統領が「偽善者たちめ」と罵倒するのは理論的には正しい。
 
米国のアキレス腱をねらって、このタイミングで中国がパキスタンとの軍事同盟をさらに深化させたことは次にインドをたくましく刺激し、パキスタンとアフガニスタンの隣国であるイランの核武装を急がせることになるだろう。
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