犬は夏を前にして毛が抜け変わる。冬の寒さをしのぐために密集して生えていた産毛の様な細かい毛が、春から初夏にかけてまとまって抜ける。家の中で飼っている愛玩犬だと、一日に二回は抜け毛の始末のために掃除機をかける。毎日、ブラッシングをしていても、この有様。
最初の愛犬チロ、その子のバロン一世には、これがなかった。冬はガス・ストーブの前の一等席で昼から寝ていたし、夏はクーラーの下で遊んでいたから、産毛も生えないし、まとまって抜け落ちることもなかった。チロとバロン一世も国際血統書がついたウエリッシュ・コーギー犬。だが純血種は雑種に較べて弱い。二匹とも12歳で死んだ。
家族の一員だったチロとバロン一世に死なれて私たち夫婦は、しばらくは何もする気がおこらないほどの喪失感に襲われた。どうにも我慢できなくなって一ヶ月後に犬屋に行って、一番元気で暴れん坊のコーギー犬を買い求めた。それがバロン二世、祖父犬は静岡でチャンピオン犬だった。
そのバロン二世だが、冬でもスートブの前に寄りつかないし、夏のクーラーも好きでない。おかげで春から初夏にかけてたっぷり毛が抜け変わる。お陰で女房は一日中、バロン二世の抜けそうな毛を追い回す毎日となった。バロン二世はそれを嫌ってオオカミのような怖い顔をして女房を威嚇するようになった。
「怖い!」と言って女房は怯むのだが、ぶら下がった毛を抜く楽しみだけは捨て切れない。毎日のようにバロン二世と女房のバトルが繰り返されいる。不思議ななことにバロン二世は、私が毛を抜いても怒らない。朝夕の散歩に連れていくだけのバロン二世との付き合いだが、どうもなつき方が尋常ではない。私を父親と間違えているのだろうか。
東北旅行で四日間、家を留守にしたのだが、一回も食事をとらずに玄関で待っていたという。「忠犬ハチ公よ!」と女房はいう。「あたたが死んだら、バロン二世は絶食して後を追うのではないかしら・・・」。あと何年生きられるか分からないが、バロン二世と二人三脚で一日でも長く生きるつもりでいる。
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5866 クーラーもストーブも嫌いなバロン二世 古沢襄

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