昨年6月に西和賀町に行ったら北上市郊外で農家をやっている仲間が山羊の乳を持ってきてくれた。母も私も牛乳には弱い。飲むと下痢をする。酒はいくら飲んでも下痢をしないのだが牛乳には弱い。体質が合わないのであろう。
一昨年の飲み会でたまたまそんな話をしたら、覚えていた仲間が山羊の乳を持ってきてくれた。山羊の乳なら下痢をしないという。
戦時中のことだが、疎開先の旧制中学で農家に動員をかけられた。中学4年生以上は名古屋の軍需工場に動員をかけられて、残った私たちは農村に送り込まれた。桑畑の桑の根を掘り起こし、畑にする作業だったが、かなりの重労働。食糧増産のためである。
昼になると大きな握りめしが配られて来る。くい盛りの中学生だったから、これほどのご馳走はない。その時にドンブリ一杯の山羊の乳もご馳走になる。農家のオバサンたちが「いずれ戦争に行くのだから身体だけは鍛えておかなくちゃ・・・」と山羊の乳を飲ませてくれた。
しかしこの山羊の乳の草くさいこと。都会育ちの私などは目をつぶって飲み干した記憶が残る。
北上市の仲間の好意は有り難かったが、四合ビンに詰めてきた山羊の乳にすぐ手をだす気にならなかった。そんな私の気持ちを見透かしたのか「匂わないから飲んでみろ」という。それで飲んでみたら本当に匂わない。「乳を搾って冷蔵庫で一晩置けば匂いが消える」とタネ明かしをしてくれた。
牛乳で下痢をする人も山羊の乳なら下痢をしないので、結構、需要があるそうだ。
ことしは西和賀町湯川の山人(やまど)旅館に宿泊したのだが、美人の女将がグラスの盛ったアイスクリームを出してくれた。こってりとした甘い味がする。「山羊の乳で作ったアイスクリームですよ」という。北海道から山羊を連れてきて、山羊アイスクリームをデザートの定番にするつもりだと女将はいう。
奥羽山脈のふところに抱かれた東北の温泉宿だが、温泉に入ってほてった身体を山羊アイスクリームで癒すなんて、東京のビジネス・ホテルでは味わえない。だから毎年、東北旅行に行きたくなる。
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5891 匂わない山羊の乳でアイスクリーム 古沢襄

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