戦争に負けたのは軍隊が悪いというので、彼らを全部悪人扱いにして社会の片隅に追いやってしまった。あれでもし日本が勝っていたら、逆に英雄視され褒め讃えられていたはずです。
その点ドイツは違いました。確かにドイツは戦争に負けたかもしれない。けれども、自国と自国民を守るために軍人は戦った。その軍人の気持ちを汲んで、敗戦後もドイツ国民は、みな手厚く接しました。
戦争に負けたとはいえ負け戦を知っていた彼らを温かく迎えることで、みんなで力をあわせて新しいドイツを築こうというのです。
戦後、十四年間、首相を務めたアデナウアーなどは、一部の優秀な将校たちを修道院に隠し、軍の再建のため立案させ、1955年には再軍備を成し遂げました。 ドイツの憲法も自主憲法です。
曽野綾子 ドイツも戦後は占領されていたのに、いまの日本と大きく異なりますね。
クライン孝子 そういうところ同じ敗戦国なのに日本は下手ですね。一旦悪者と言う烙印を押すと根こそぎ寄ってたかってつぶしちゃう。
曽野 結局、人間というものを理解していないんです。人間の中には途方もなく悪いものと、途方もなく偉大な部分があることを承認できない。
キリスト教では、教会の圧迫時代に火責めにあったり、ライオンに食べられたりした人たちがいて、そういう殉職者のことを「martyr(マーター)」と言います。
これはもともとギリシャ語の「マルチュレオー」という動詞が語源で「証明する」という意味があるそうです。
普通の人なら火責めにあったり、ライオンに食べられそうになったら、すぐに「キリスト教なんか捨てます」と言うのが普通だけれど、そうじゃない人たちは、神の力によって意外な力が与えられたことを証明した人たちだと。
クライン そう、私も偉そうに正論を吐いていても、いざ警察に捕まって、拷問を受けて「曽野綾子はスパイだろう」と詰問されたら、そうでなくても、葛藤しながら、ついウソをついて「はい」と答えサインすると思う。
曽野 私だってそうですよ。そんなのと付き合っていられないから、クラインさんが捕まる前に、「おまえ、スパイか」といわれたら、「はい」って言います(笑)。
普通はそうなんです。そうなんだけれども、人間にはマルチュレイオーする可能性もある。その両方を確認することが人生なんじゃないかと思いますね。>>
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5899 人間にはマルチュレイオーする可能性もある クライン孝子

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