中国新疆ウイグル自治区で騒乱が起き、ウイグル人多数が死に、逮捕されてからちょうど1年、アメリカではこの1周年を記念してなお、中国当局のウイグル人弾圧を非難する集会が開かれています。
米国議会上院のダークセン議員会館6階の公聴会室は超満員だった。7月19日午後、この時期の首都ワシントンは夏休みのために街路の人通りは少なくなるのだが、この部屋は人の熱気に満ちていた。 「中国に関する議会・政府委員会」が主催した中国のウイグル問題についての公開討論会だった。
この委員会は名称のとおり、議会と行政府が合同で中国の人権問題について調査し、議論し、議会と政府の両方に政策提言をする。いまの委員長はバイロン・ドーガン上院議員、副委員長はサンダー・レビン下院議員で、いずれも民主党の有力議員である。
この立法府の代表に対し行政府は国務省の高官が代表になることが多い。19日の討論会は「抗議や騒乱から1年後の新疆の状況」と題されていた。中国の新疆ウイグル自治区で昨年の7月上旬から起きた騒乱からちょうど1年、中国当局の弾圧や、ウイグル人と漢族中国人との衝突で死傷者数千人を出した惨劇の後はどうなったか、という探索なのである。
こういう集いをみると、いまさらながら超大国の米国の奥行きを感じる。
ウイグル人問題というのは、中国政府の弾圧が明白でも、オバマ政権は触れたがらないのに、大統領と同じ民主党の有力議員が名前を出しての中国政府批判の討論会が立法府、行政府の共同作業として催されるからだ。しかも一般の傍聴者で大きな公聴会室が満員となり、立ったまま耳を傾ける人も多いのである。
ウイグル問題には血なまぐさい事件からすでに1年が過ぎても、米国側での関心はこれほど高いのだ。パネリストでは米国を主体とする民間の国際的な人権擁護団体の「人権ウオッチ」のアジア部門責任者ソフィー・リチャードソン氏が発言した。
「ウルムチ市の中心部の34世帯の現況調査では、そのすべての世帯で最低1人は不在者がいることが判明しました。当局に連行されたのです」ウイグル人住民多数が正規の司法手続きを経ないで拘束されたままだというのだ。
ウイグル地区の人口動態を研究するマイアミ大学のスタンレー・ツープ准教授は、新疆の総人口2130万のうちウイグル人は46%、漢民族中国人は39%にまで増えた実態を説明する。
「中国当局によるインフラを建設しての経済開発が進むほど、言語、文化、風習などの各面で脱ウイグル化が進んでいます」
議会調査局の中国専門官シャーリー・カン氏は米中関係のなかでのウイグル問題の現状を語る。
「中国当局はウイグル問題を台湾やチベットと並べ、『国家主権にとっての中核の問題』と呼び、絶対に妥協しないという姿勢を強めています。米国政府も正面から提起しないとはいえ、注意を絶やしていません」
しかしさらに核心を突いたのは、傍聴にきていた著名な中国専門家マイケル・ピルズベリー氏の問題提起だった。
「ウイグル人は民族としての独自性を奪われていくという悲劇はチベット人と変わらないのに、米国でも国際社会でも、チベットよりはるかに少ない支援や関心しか得られないのはなぜでしょうか。一部ウイグル人がテロ勢力に入っていたからか、イスラム教徒たちだからか」
この問いには、多様な答えが熱っぽく返された。
「チベット民族には亡命政権があり、ダライ・ラマという象徴的存在があるが、ウイグル人はそうではない」「チベットでの自立の動きの国際的アピールの歴史がきわめて長い」「仏教とイスラム教との一般への印象の違いが大きい」「9・11テロ以後の対テロ戦の相手にウイグル人の一部が含まれたことが大きい」-。
ウイグル問題への米国の対応はオバマ政権の表面の冷淡な態度だけで即断してはならないと思わされる討論がなお長く続くのだった。
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