5974 菅首相の甘い「指導者論」 岩見隆夫

暑い盛りだから、多少の脱線をお許し願いたい。というのは、知り合いの占い専門家から菅直人首相の詳細な卦(け)が届いた。そのサワリは--。
▽今年は苦労が多く、特に8月が大変だ。健康を害さぬよう要注意。今年のつらさを乗り越えれば来年以降は大丈夫、首相としての身分、地位にふさわしい仕事ができる。
▽いまの菅首相は大局がつかめていない。子供でガキ大将、けんかも強くない。貧乏なお百姓の感じで、肥料が買えないから声だけ大きい。
▽仙谷由人官房長官とは融和しない。仙谷長官が「これは駄目だよ」と言うと、菅首相が逃げるのでほころびができる。
▽菅首相は小沢一郎前幹事長を切れない。小沢氏も手続きを間違っている。
--など。しょせん占いだから読み飛ばしてもらえばいいが、当たらずといえども遠からず、の感もある。
菅新政権の発足からまだ1カ月半だが、早くもがけっぷちに立たされている。もちろん参院選の敗北が痛いが、それよりも敗北を通じて浮き出てきた首相としての資質が問われることになった。
世論は7割が菅首相の続投を支持している。だが、菅の資質を買っているからではない。鳩山由紀夫前首相の在任8カ月半に続いて、またも短命首相では、もはや国家としての体面が保てないと本気で憂えているからだろう。
今週、四国・高松を訪れたところ、地元の有力者が、
「菅さんは何度かお遍路にみえたけれど、53番札所で止まっている。やるなら88カ所全部回ってもらわないと。弘法大師が怒ってますよ。四国で菅さんの評判は悪い。だから選挙も負ける」
と息巻いていた。せっかくのお遍路が裏目に出ている。批判を浴びた消費税増税問題も同じで、言ったからには貫くべきだった。菅は、唐突な発言と説明不足を反省したが、それだけでなく、有権者は批判を恐れてふらつく姿勢を嫌った。
縁切り宣言したと思われた小沢前幹事長に、「おわびしたい」と言ってみたり、政治主導の看板だったはずの国家戦略局を格下げしてみたり、いずれも一貫性に欠ける。
千葉景子法相の留任も驚きだった。憲法第68条は、<国務大臣の過半数は国会議員の中から選ばれなければならない>と定めており、千葉は議員として法相に任命された。落選すれば当然その資格を失うが、とたんに民間人扱いに切り替えるのでは便宜的すぎる。
批判ついでに言えば、菅が選挙演説の最後を、「……皆さん、どうですか」と締めくくるのも大変気になった。私の言うとおりでしょう、と賛同を求めている。この口調は、先の所信表明演説のむすびで、
「リーダーシップは、個々の政治家や政党だけで生み出されるものではありません。国民の皆さまにビジョンを示し、そして、国民の皆さまが『よし、やってみろ』と私を信頼してくださるかどうかで、リーダーシップを持つことができるかどうかが決まります」
と指導者論を披歴したのと結びつく。これは甘えの論理である。ビジョンを示しただけで信頼するほど、国民はやさしくない。消費税の失敗も、原因はそのへんにありそうだ。
とはいえ、菅には腹を固め直して、高いハードルを乗り越えてもらうしかない。自民党のベテラン議員から「カン(菅)は戦前戦後の首相の中で、外国人がもっとも覚えやすい名前だそうだ」という結構な話も聞いた。(敬称略)
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