富山市には一年半しか住まなかったが、食べ物の美味しいところであった。中でも北日本新聞社の深山栄さんに連れていって頂いた「鶴喜(つるき)」の天盛りうどんの味が忘れられない。四十年も前のことだから、その店が今でもあるのか、どうか。
信州で少年時代を過ごしたので、東京ではいっぱしの”ソバ通”のふりをしていた。東京生まれの東京育ちだったから、うどんよりもソバだと言っていた。それも盛りソバ、きつねソバやたぬきソバは邪道だと大口をたたいてきた。
深山さんから、天盛りうどんを食べてみろと言われて、半分は迷惑だったが、赴任地の新聞社の編集局長氏からご馳走になるのだから、文句をつけるわけにいかない。
食べてみて驚いた。腰の強いツルツルとしたうどんの食感はただものではない。鶴喜ではうどんとソバの合い盛りも出してくれる。ソバの味はイマイチだったが、うどんの味は絶品だった。一年半後に金沢に転勤となったが、週に一度は富山に行って鶴喜のうどんを食べるほど惚れ込んだ。
富山市の県庁近くに「弁慶」という魚料理を食べさせる店があった。朝、魚津でとったホタル・イカをしょうが醤油で食べる。新鮮で油がのったホタル・イカは富山でしか食べられない。これは北日本新聞社の尾島整理本部長に連れていって貰った。
尾島さんは大酒呑みだったので、すぐ意気投合して、外でハシゴ酒をした後、わが家で酒の仕上げをする日々が続いた。千葉県育ちの女房は”ネコ”。それなら美味い魚料理の店があると夫婦で連れていって貰ったのが「弁慶」。私よりもホタル・イカにはまってしまったのが女房。いまでも思い出したように「ホタル・イカを食べたい」という。その「弁慶」も今はないのだろう。
富山市郊外に小さな魚料理を食べさせる店があった。支局の長老が連れていってくれた。富山湾で釣れたフグを食べさせてくれる。フグ刺しやフグちりは東京でも食べていたが、フグの肝は初めて。酒のつまみとしては絶品だったが、そのうちに口のまわりが痺れてくる。日本海で釣れたタラの塩焼きも美味しかった。
酒は立山の二級酒がいい。さっぱりとした味でいくらでも飲める。それまでは秋田の新政(あらまさ)一本槍だったが、北陸勤務以来、立山に宗旨替えしている。しかし新政も立山も東京の酒屋で買うものは、どうも味が違う。地酒は、その土地で呑むのが一番よい。
昔は一升酒を飲んでも平然としておれたが、寄る年波で今では一合か二合飲むだけでホロ酔い気分になる。それでもドブロクを出されると、つい過ごしてしまう。ドブロクは東北にかぎる。明日から次女の介添えで、お忍びの信州旅行に出る。一泊二日の短期旅行だから、すぐ戻ってくるのだが、足腰が丈夫なら富山に足を伸ばしたいところだ。目的地は上山田温泉で母方の祖父の墓を訪ねたいと思っているのだが・・・。
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6007 富山の味が懐かしい 古沢襄

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