北朝鮮の金正日総書記が突然、中国東北部の吉林省長春市を訪問した謎は解けない。三ヶ月前に中国を訪問したばかりである。米国からカーター元大統領という元首クラスを招待しながら、会談を放棄して中国に行ってしまったのは何故か。よほどの緊急事態があったとしか思えない。
韓国の朝鮮日報は「米韓合同軍事演習に反発した中朝両国が、三カ月ぶりに首脳が再会し血盟関係を強調」と分析しているが、納得できる説明とはなっていない。教科書通りの説明のような気がする。
北朝鮮は、九月初めの労働党代表者大会で、注目の後継体制を明らかにするという観測がある。その前に盟邦である中国に後継者キム・ジョンウン氏を伴って、金正日総書記が長春市で南湖賓館で胡錦濤・中国国家主席と首脳会談したという観測情報(聯合ニュース)もある。
それなら舞台は首都・北京だろう。地方都市の長春市という点が、いささか納得できない。おまけに金正日総書記の姿は日本のメデイアにも撮影されたが、キム・ジョンウン氏の姿は捉えられなかった。
このほか、最近の深刻な水害、昨年のデノミネーションの失敗による混乱で、北朝鮮経済が破綻に瀕しており、食糧不足で社会不安が生まれている。中国側に食糧援助など緊急支援を求めた説もあるが、このために金正日総書記がわざわざ中国を訪問するというのも頷けない。
韓国のメデイアは様々な分析をしているが、ストーンと胸に落ちるものはない。少し飛躍するかもしれないが、キム・ジョンウン氏への後継体制を明らかにする行事として、核実験を誇示するつもりでいるのではないか。そのために事前に中国の了解を求めたとすれば納得できる。中国側が納得したかは別問題なのだが・・・。
<(北京・瀋陽・長春28日聯合ニュース)中国東北部を訪問していた北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記を乗せたとみられる専用特別列車が、28日夜(日本時間同)に吉林省長春市の長春駅を出発した。帰国の途に就いたとみられるが、列車がどこに向かったかは確認されていない。
金総書記は同日午前、長春市内にある宿泊先の迎賓館・南湖賓館を出発し、市郊外にある国際農業・食品博覧会と吉林農業大学を訪れた。その後、中国の自動車大手「第一汽車」の工場などを訪問し、帰国するとみられていたが、昼過ぎに再び南湖賓館に戻った。
金総書記を乗せた車列が夜、南湖賓館を出て駅に向かう際には、王家瑞・中国共産党中央対外連絡部長の姿が取材陣にとらえられた。王氏は金総書記の中国滞在中、常に随行していたと伝えられる。
金総書記は前日の27日、南湖賓館で胡錦濤・中国国家主席と首脳会談したとみられている。(聯合)>
<金正日 北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が27日、中国吉林省の長春で胡錦濤主席と非公開の会談を行った可能性が高い、と政府高官が伝えた。一方、ジミー・カーター元米大統領は同日、金総書記に会えないまま帰国の途についた。安全保障関連部署の当局者は、「北朝鮮が、当分は中朝関係強化に力を入れるというメッセージを送ったということだ。
哨戒艦『天安』沈没事件以後、北東アジアで“韓米対中朝”の対立が深まる様相を呈している」と語った。韓米両国は最近、大規模軍事演習などを通じて関係を強化している。これに対抗して中朝も、3カ月ぶりに首脳が再会し、「血盟関係」を強調する格好となった。
政府筋によると、今年5月の金総書記訪中の成果は期待外れに終わったという。胡主席は金総書記に対し、「天安」事件の真相を尋ねたが、金総書記は関連を全面的に否定したという。一方、金総書記の軍事的・経済的支援の要請に対し、胡主席はあいまいな反応を見せたという。同政府筋は「今年5月、金総書記は食糧50万トンと中国の最新鋭戦闘機“殲10”の無償支援などを要請したが、成果は上げられなかったと聞いている」と話した。しかし、この時点でも中朝関係は過去の水準とあまり変わらなかった。
しかし、「天安」事件以後、南北間の対立が徐々に米中対立の局面へと拡大している情勢だ。韓米合同軍事演習に、中朝両国はあからさまに反発した。中国は、米国が自分の庭で軍事演習を実施したと主張した一方、北朝鮮も「韓米の戦争威嚇」といった反応を見せた。キム・フンギュ誠信女子大教授は、「北朝鮮は『天安』局面で、中国が明確な友邦であるということを韓米に見せ付けたかったはず。中国も北朝鮮を通じて、韓半島(朝鮮半島)への影響力を確認したかったのだろう」と指摘した。
特に、北朝鮮としては、9月初めの労働党代表者大会を通じて後継体制を公式化させたい状況下で、中朝対韓米の緊張構図はさほど悪いわけではない。中国から食糧支援さえ受けられれば、対外関係の緊張は内部統制の口実となる。また、最近北朝鮮の戦闘機が中国で墜落するなど体制弛緩の兆しが見えていた中で、「中国という安全弁を用意しておくのは、いつにも増して重要なこと」(国家安保戦略研究所パク・ビョングァン博士)という分析もある。
しかし、中朝対韓米という対立構図が鮮明になったのは、「韓国の責任ではなく、『天安』を撃沈させた北朝鮮によって起こった事態」(イ・ジョウォン中央大教授)との見方が大勢だ。韓国政府は今年初めにも、首脳会談を通じた南北関係の改善を模索した。
「今年3月26日に『天安』が沈没したとき、北朝鮮の仕業だと疑わなかったのも、こうした背景があったため」(政府筋)というわけだ。統一部の関係者は、「北朝鮮が後継者とされるキム・ジョンウン氏の指導力を誇示するなど、内部問題のために『天安』事件を起こしたと見ている。中国に依存し、『天安』事件の責任を逃れようとした結果、中朝対韓米の構図が徐々に深まった」と指摘した。(朝鮮日報)>
杜父魚文庫
6146 分からない金正日総書記の中国訪問 古沢襄

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