6221 民主党代表選をめぐる「世論分極化」の実相 花岡信昭

*ネット調査では小沢氏が菅氏を圧倒
民主党代表選は14日の投票を前に大詰めの段階を迎えた。おもしろいといってはなんだが、いかにも現代的な様相があらわれている。
大手の新聞、テレビの世論調査では菅直人首相が圧倒しているのだが、ネットの世界ではまったく逆の現象が起きている。 小沢一郎前幹事長の人気がすさまじいのだ。
街頭演説会で小沢コールが巻き起こっていることとあわせ、この分極化現象はわれわれがあまり経験したことのない情景である。
マスメディアの世論調査による支持率は、おおむね菅氏60%台、小沢氏20%弱といったところだ。 それがネットの世界ではまったく違う。
小沢氏は4日、ニコニコ動画にナマ出演したが、このときのユーザーの反応は78%という驚異的な支持率となった。 8日現在、選挙情報専門サイト「Election」では、小沢氏54・2%、菅氏31・7%だ。「Yahoo!みんなの政治」でも、小沢氏59%、菅氏28%である。
*「体当たり感覚」の言動に爽快感を
 
むろん、マスメディアの世論調査が専門的手法を用いて調査対象を選択しているのに比べ、ネットの調査は「投票」したい人が勝手にクリックするというものだから、公平な調査とはいえないかもしれない。
だが、ネット投票に参加する人たちはそれなりの積極的意思を持っているわけで、その結果がマスメディア調査と完全に逆転しているというのは、どう見たらいいのか。
民主党代表選に高い関心を持っている人たちの多くが小沢氏を選択しているのである。おそらくは小沢氏の「政治とカネ」の問題など先刻承知の人たちである。
勝手に判断すれば、小沢氏の「瀬戸際に立たされ、身体を張ったぎりぎりの行動」から生まれる「存在感」に敏感に反応しているのではないかと思う。
蓮舫行政刷新相が、参院選東京選挙区で断トツの1位となったのも同様な分析が可能だ。 事業仕分けで次世代スーパーコンピューターの開発について「なんで世界1位をめざさなくてはいけないのか。2位ではだめなのか」と叫んだ言動は、専門家や政治を見る「玄人」の間では、きわめて評判が悪かった。
だが、一般の受け止め方は異なった。多少おかしなところはあろうとも、「体当たり感覚」とでもいうべき言動に爽快感を覚えるのである。
四方八方に目配りし、慎重に配慮して、ありきたりの言動を重ねていても庶民感覚には受けないのだ。 小沢氏と菅氏の一騎打ちは、そうした意味からいえば、「存在感の大きさ」のぶつかり合いであるともいえる。
*「床の間感覚」と「勝手口感覚」の差か
 
マスメディアのかしこまった世論調査では、行儀のいい回答しか出てこない。 「どちらが首相にふさわしいか」と問われると、「政治とカネ」の問題を抱え、刑事被告人になる可能性もある小沢氏を選択するのには、やはりちゅうちょしてしまうのではないか。
マスメディアとネット社会の違いはそこから生じている。床の間感覚と勝手口感覚の差、とでもいうべきか。代表選の情勢は菅氏優勢という見方も強い。マスメディアの世論調査の結果がそのまま反映されるのであれば、確かにその通りなのだろう。
そこで、実態としてはどうか。
民主党幹部によれば、国会議員411人のうち、350人ほどの態度が明確になっているようだ。そこだけでみれば、小沢氏がやや優勢だといわれる。残りの60人ほどをめぐる双方の必死の説得工作が展開されている。
国会議員票は1人2ポイントとカウントされるから822ポイントとなる。全体の3分の2を占める。
問題は地方議員票100ポイント(比例配分)、党員・サポーター票300ポイント(衆院小選挙区ごとに上位が1ポイント)の行方だ。小沢氏サイドでは、マスメディアの世論調査結果が反映されるのではないかと警戒している。
これは党本部あてに郵送され、11日が締め切りだ。国会議員投票の前日に開票される予定だったが、変更された。国会議員投票の行われる両院議員総会は14日の午後、都内のホテルで行われるが、その午前中に同じホテルの別室で開票されることになったのだ。
前日だと、開票結果が漏れて国会議員投票に影響を与えかねないという判断からという。だから、開票作業も党の事務局ではなく外部業者に委託して行うという念の入れ方だ。
*「終わったらノーサイド」といくのかどうか
 
小泉純一郎氏が自民党総裁選で華々しく登場したときは、前日までに地方票の圧勝が確定し、これが決め手となった。
民主党代表選は正規の方法で行うのが2回目で、そうした「小泉現象」の再現を避けようということらしい。 これが菅氏、小沢氏のいずれに有利に働くか。
地方議員票、党員・サポーター票の開票結果は国会議員投票の結果と同時に発表されることになるわけだが、おそらくは両陣営とも事前に入手すべく、あらゆる手を使うだろう。
国会議員投票は無記名だ。かつての自民党総裁選を思い出すが、派閥の締め付けによって、確実に投票したことが分かるように、投票用紙の右側とか左側に寄せて書けといった指示が出たりしたものだ。
投票用紙は残るのだから、あとで点検すれば「筆跡鑑定」も可能だ。だからわざとカタカナで書く人もいたという。 そういった事情も考えると、代表選の結果はなんともいえない。
菅氏は「クリーンでオープンな党運営を」と小沢氏の政治手法をつつきまくっている。小沢氏は「口先だけの政治主導ではだめだ」とこれまた菅氏の政権運営能力をなで切りにする。
感情的対立も頂点に達しているようで、「終わったらノーサイド」といくのかどうか。 代表選の結果は予断を許さないのだが、残った選挙期間でこれだけは徹底させてほしいと思う注文がある。
安全保障や外交政策を中心に、日本をどういう国にしていこうとするのか、国家観や国家戦略をめぐる議論がなんとも希薄に見えるのである。
*両候補とも「東アジア共同体」に無防備に言及
代表選向けに双方がつくった「選挙公報」によれば、安保・外交分野への言及はいずれも後半になって出てくる。
菅氏は<「平和創造国家」を標榜する外交>というタイトルで、<世界平和という理想を求めつつ、現実主義に立脚した外交を展開します。日米関係の深化とともに、アジア諸国との信頼構築に努め、「東アジア共同体」構想を推進します>などとしている。
普天間移設問題については、日米合意を踏まえて取り組むとし、<何より沖縄の方々の理解を得るため、誠心誠意説明を尽くします>としている。
小沢氏は<責任ある外交の確立>として、こちらにも「東アジア共同体構想の推進」が出てくる。ただし、小沢氏の場合は、その頭に「環太平洋諸国も含む」と付け加えている。
「国連中心の平和活動に積極的に参加する」と持論の国連中心主義を掲げ、普天間問題については<沖縄県、米政府と改めて話し合いを行い解決する>としている。
いずれも、「東アジア共同体」がなんとも無防備に出てくるところに、まず、危うさがにじむ。 共通通貨を持つEU(欧州連合)とは違って、東アジア地域には中国をはじめ基本的価値観が違う国々が存在する。
地域の安定と平和を維持するための努力を尽くすことは当然なのだが、「共同体」となるためには、幾多の関門がある。 それになによりも日本の最大の同盟国はアメリカなのだ。
*「外交・安保は水際まで」の原則を思い起こせ
日米関係を強固にして、軍事増強路線を突っ走る中国に対する確固とした構えがあってはじめて、東アジアのほかの多くの国々が安心するのではなかったか。
朝鮮半島や台湾海峡の情勢はより厳しさを増している。やはり日本が「日米同盟基軸体制」をきちんと再構築していかないと、地域の安定と平和に貢献するのは困難だ。
民主党がインド洋上での海上自衛隊の補給支援活動を撤退させたことも忘れてもらっては困る。これはひとことでいえば「反米的」行為なのだ。
普天間問題は複雑なあい路にはまり込んだ。「誠心誠意」「話し合い」といった次元では追いつかないのではないか。
念願の政権交代を実現させた民主党だが、「外交・安保は水際まで」の原則を改めて思い起こすべきではないか。
政権が代わったら、外交・安保政策の軸がぶれてしまうというのでは、理想的な2大政党時代は到来しない。とはいえ、民主党は代表選の高揚によって、支持率を回復しつつある。党3役一新で失地回復をはかりたい自民党の真価が問われる局面でもある。
杜父魚文庫

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