たまたま5日朝、NHKテレビ<日曜討論>の時間帯、夏休みの旅行で北海道の利尻島から礼文島に向かうフェリーの船室にいた。
大型テレビが2台据えられていたが、音を出さない。民主党代表候補の2人、小沢一郎前幹事長と菅直人首相の討論ぶりを約40分、顔と表情だけで観察することになった。
無声も結構新鮮だった。顔は<男の履歴書>と言うが、想像がふくらむ。
小沢は三白眼、目の下のたるみが気になり、雰囲気は時代劇、胸に一物の悪役を連想してしまう。一方の菅はサラリーマンものの現代劇ムード、だれかに似ているな。あ、気まぐれ男の植木等。
目は口ほどにものを言い、などと言うが、目も含め顔から伝わってくるのは多彩、複雑だ。うっかりするとだまされる。ここは、当コラムでも20年以上政治家の顔を描き続けてきた西村晃一画伯に登場いただくしかない。
--まず、全体的な顔の印象。
「小沢は基本的に仏頂面、暗い。持ち前の性格でしょうね。菅はどれが本当の顔かわからない。明るいけど迎合的というか。年金問題の時、菅はお遍路に出たでしょ。自分のものを持っている人は遍路はやらない。小沢はやらない」
--こんどは2人ともよく笑った。
「菅は垂れ目でスマイル・ラインがいい。笑顔に向いていて、無邪気に見える。小沢は伏せ目で、すぐ作り笑いとわかってしまう。特に人に会った時、大きな口を開けて笑う。不自然だ」
--どちらが好かれる?
「それは菅でしょう。小沢はシャイでこわもてだが、感覚的に嫌われる。最近は見た目が大事と言うが、好みは世代で大分違ってくるんじゃないか。百戦錬磨の小沢は中高年向き、菅は逆に若いほどいい」
--毒があるのはどちら?
「小沢は粘着質、毒かどうか、強いものを持っている。菅は毒にも薬にもならないような」
--さて、首相の資質が顔にあらわれているか。
「むずかしいが、深みは小沢の方がある。何でもさらけると深みがなくなる。小沢はわからないところが強みじゃないか。我も通す。
菅はテレビ向き、ディベート好き。目の前の相手次第で適当に変わり、社交的だ。オウンゴールの恐れも菅の方だが、世間には受け入れられやすい。小沢は古すぎる」
--カネと顔。
「小沢のことだと思うが、顔を見ていると、開き直っているだけでなく、自分の中ではかたくなにけじめをつけている感じ。菅にはカネの臭(にお)いがない」
--顔の今後。
「小沢の顔は重いが、できあがった顔、これ以上変化もない。負ければ求心力がなくなるから、郷里の知事がいい。菅は軽いが、成長過程の顔かな」
以上が西村画伯の顔診断だった。2人の年齢差は5歳、議員歴は10年差で小沢が先輩だが、面相にはそれ以上の違いがあるらしい。出生地なども含め履歴の違いが顔に凝縮されたとみるほかない。
小沢待望論者のローマ史研究家、塩野七生は、雑誌インタビューで、高度経済成長期の池田勇人首相、占領期の一万田尚登日銀総裁、ホンダ創業者の本田宗一郎を引き合いに、
「3人と同じように、『面構え』の迫力を感じるのが小沢一郎氏です。彼にこそ日本を引っ張るリーダーになってもらったらいい」と述べている。
面構え、たしかに菅より小沢の方がアクが強い。頼りがいがあるとみる人もいる。だが、奥に隠されたものがわかりにくい。(敬称略)
杜父魚文庫
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