米国はなぜ中国の横暴に甘く、日本の必死の叫びには冷淡でいられるのか。人民元の不正為替操作をオバマ政権はまたまた黙認へ。
発言内容から判断する限り、米議会の反中国感情は相当なものである。クリストファー・ドッド上院銀行委員会委員長(民主党、コネチカット州選出)はかく言う(9月16日、ワシントン)。「中国は望むこと何でもやってきた。その間に米国は弱くなり、中国は強くなった」。
これに対してガイトナー財務長官は証言席でこう応えた。「中国が実質的に通貨を過小評価させ、通商上の優位を不当に維持し、外国から技術を獲得し、米国からの輸入を不適切に阻止している。けれどもオバマ政権としては、中国が為替不正操作国家と認定することは好んで選択したいと思わない」。
ガイトナーが理由としてあげたのは、「米国の対中輸出も予測以上の速さで恢復しており、大豆の輸入は90億ドル、航空機35億ドル、全米19の州が年間10億ドル以上の対中輸出をしている。それでも米中貿易不均衡が530億ドルもあるけれど。。。」と最後のほうは言葉を濁した。
議会は対中国制裁法案として中国からの輸入品に一律20%の報復関税をかける事などを盛り込んだ内容を準備している。
ドッド上院議員はほえた。「明らかなことだが、米国は対中戦略を変更する時期にきた」
中国は敏感に反応し、即応する柔軟性がある。かれらは、この米国上院委員会での証言が貴重な政治的ファクターとなることを十二分に承知しており、直前までのロビィ活動、マスコミ工作を展開し、さらに直前には0・3%ていどの「元切り上げ」を演出して見せた。9月16日、人民元は対ドルで6・7181を(1人民元=12円80銭)。
じつは上院は対中制裁目的の懲罰的法案を用意し、討議にかけており、この法案成立にオバマ政権は反対してきた。
「ガイトナーは貿易を越えて輻輳する米国の利益やビジネス機会を考慮すれば、この段階で対中報復的法案の成立は事態を悪化させると示唆している」(ウォールストリートジャーナル、9月16日)。
人民元の演出的な切り上げに市場は冷淡だった。対米ドルレートが6・7248から6・7182になった程度であり、「これは過去にもしばしば演じられたパターンの仕草にすぎない」(同ウォールストリートジャーナル)。
中国はオタオしない。日本のように米国高官の発言や議会の威圧的討論に動揺しないのだ。むしろ米国に対して正面から挑発的であり、多くの中国人エコノミストをマスコミにフル動員して身勝手の論理を獅子吼させている。
「為替がすべての問題を解決するわけではない」。「もし、米国が人為的に米ドルを弱体化するのなら、中国は3000億ドルの運用規模をもつCIC(中国の国府ファンド)を多様化して運用する方針に切り換える」(つまり保有している米国蔡を市場で売却するぞと異なる表現で、事実上は威嚇している)。
人民元切り上げではなく「人為的な米ドルの弱体化」と比喩するあたりも、唯我独尊の中華思想が基軸にあらゆる発想を展開するからだろう。
対照的なのは日本だ。
せっかく円高に介入したのに、翌日は様子見、きょう(17日)も協力介入の姿勢を見せず市場は小動き(17日午前十時現在)。
というのも米国の対日論調はきわめて悪いため、またもワシントンの顔色をうかがっている。逆効果に転落することを怖れる。菅の改造内閣の予想顔ぶれをみても、ひとつのリーダーシップも感じられない人ばっかりではないか。
杜父魚文庫
6260 ワシントンの顔色をうかがう菅内閣 宮崎正弘

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