6273 わが日本は踏んだり、蹴ったり 古森義久

ワシントンでは日本はからかわれ、ばかにされ、ののしられ、という状態です。日本というよりも、日本のいまの政権というほうが正確かもしれません。そんな状況の一例を報じました。
なにをえらそうにと、つい反撃したくなる。「アメリカはまだあなたたちを好いているから。そんなにビクビクせず、静かにして」などと、米国の一新聞のコラムニストが日本全体に向かってのお説教なのである。しかも的外れのご託宣なのだから、ますますいやになる。
発端はヒラリー・クリントン国務長官の9月8日の演説だった。外交問題専門家の最大集団とも呼べる「外交評議会」の集いで、オバマ政権の外交政策に関する主要演説をした同長官はアジアや太平洋について次のように述べた。
「アジア・太平洋地域をみましょう。われわれ(オバマ政権)は韓国、日本、オーストラリアのような緊密な同盟国とのきずなを再確認しました」
ただこれだけの言葉だが、米国歴代政権のアジア・太平洋政策を注視してきた向きなら、すぐに異変に気がつく。米国政府はアジア・太平洋の同盟諸国に言及する際には必ず、まったく例外なく、日本を第一に挙げてきたのだ。その順番が変わり、韓国が1番目になっているのだ。そもそも国務長官の主要外交政策演説での同盟国リストアップの順番が無意味のはずがない。
「この順番はオバマ政権の意図的な決定に基づいています。決して失言や放言ではありません。オバマ政権の当局者たちが非公式にそう明言しています。この政権はいまや、アジアでは日本よりも韓国が米国の最も重要な同盟国だとみなすようになったのです」
ワシントンの大手研究機関、「ヘリテージ財団」で朝鮮半島を中心にアジア全般を専門とするブルース・クリングナー研究員がクリントン演説の読み方を明快に説明した。オバマ政権では国家安全保障会議のアジア上級部長のジェフリー・ベイダー氏が公開の場で、「日本の民主党政権の外交政策は思考がきわめて混乱し、誰が日本政府を代表して発言しているかも不明だ」とまで述べ、日本不信をあらわにしていたのだ。
だから読売新聞がワシントン特派員電で「米のアジア同盟国格付け 日本は韓国より下」という見出しでこの順番の変更を報道したのも自然だった。ところが米側ではウォールストリート・ジャーナルがこの読売報道を取り上げ、「クリントンの日本について(の発言)スリップ(失言)か、スラップ(平手打ち)か」という両角度から報じた。
同報道は国務省のクローリー報道官の「国務長官は潜在意識的なメッセージを送ったわけではなく、日本、韓国、オーストラリアすべてとの関係を重視する」という事後の建前ふう発言を伝えていた。その直後に出たのが冒頭で紹介したワシントン・ポストのコラムだった。同コラムは日本側の反応を「超過敏すぎる」とちゃかし、国務長官の発言には意味がなく、日本側の解釈が妄想のように頭から断じているのだった。
だが、オバマ政権が韓国との同盟関係の最重視を打ち出す方向へ動いたことは、6月のG20での米韓首脳会談でも示されていた。共同声明でオバマ大統領は「米韓同盟は米国にとってアジア・太平洋でのリンチピン(車輪のカナメ)」と初めて述べたのだ。リンチピンというのは長年、米国の対日同盟を指すときの表現だった。
クリングナー氏がさらに説明した。
「オバマ政権にとっていまの韓国は日本よりも信頼できる同盟相手なのです。安保上の米国の期待を果たすことに意欲を示し、実際に実行してきた。一方、日本は平和維持活動だけをみても、海賊対策での艦艇出動では憲法上の自縄自縛で韓国艦艇より効率が低い。イラクへの出動でも自衛隊はイギリスとオランダの軍隊に守ってもらう始末で、韓国軍とは大違いでした」
そもそも日本の戦後の一国平和主義の「国際的な異端」が、同盟相手として韓国よりも効率や信頼を落としているというわけだが、いまの民主党政権の言動がさらにその落下を加速しているということなのだろう。
杜父魚文庫

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