6382 「外交弱小国」とみられた 岩見隆夫

きのうからたばこの値段が上がった。マイルドセブン6を3カートン買いだめしたが、それ以上は気恥ずかしくてできない。
たばこの値上げはなんとか我慢できるが、尖閣事件をめぐる菅政権の対応は我慢の限度を超えている。いまの世間の空気は、なめるな、に近い。国民の目は節穴ではない。
核心は、一体この国の外交はだれがやっているのか、という点に絞られる。先月24日、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に体当たりし、逮捕された中国漁船船長の釈放を発表するに当たって、那覇地検の鈴木亨次席検事が、
「わが国の国民への影響と今後の日中関係を考慮した」と述べた時、だれも、おや、と思った。何の影響のことかわからないが、国民は検察にお願いした覚えはない。
しかも、鈴木は、福岡高検、最高検と協議の上、とも付言した。最近、とみに評判を落としている検察庁が高度の外交判断をしたというのだ。
菅直人首相以下の政府首脳は、何をしていたのか。仙谷由人官房長官は、釈放決定を、
「了とした」と追認し、国連総会から帰国した菅は、
「検察当局が総合的に考えた結果だ」と検察の自主的判断を強調した。政府はこの重要な外交決定にかかわっていない、とほかの関係閣僚も口をそろえたのだ。そんな見え透いたことを、だれも信用しない。
世間は、まず大国・中国による理不尽な脅しに屈した、と船長釈放に怒りの声をあげ、ついで、
「政府はうそをついている」と直感し、あきれたのだ。
船長逮捕(8日)から釈放決定までの16日間、菅首相らが多忙を極めたのは確かだった。民主党代表選、内閣改造、首相らの国連出席と続き、息つく間もなかった。
しかし、だからといって、外交権を検察に譲り渡していいはずがない。日中間が次第に険悪になっていくなか、菅らが検察にゲタを預け、傍観していたとすれば、無能、無責任の批判を浴びるが、まさかそんなことはあるまい。
政府部内には、船長を起訴して裁判にかけるべきだという筋論と、釈放による撤収論があったはずだ。菅は早々に釈放を主張した、と報道されたが、多分そうに違いない。それなら逃げずに、首相の意思として国民に説明すればよかった。
「検察への指揮権発動だ」と非難されるのを恐れたのかもしれないが、指揮権は必要な時もあるから、検察庁法で認めているのではないか。
仙谷長官は、30日の衆院予算委集中審議で、尖閣事件が指揮権対象の事案ではないと政治介入を全面否定しながら、一方で、
「行使がどういう場合に許されて、どういう場合にやってはならないのか、大いに議論しなければならない」と矛盾する発言をした。判断基準がなかったことを白状したに等しい。
結局、菅、仙谷ら政府首脳は中国の激しい圧力に直面して、どんな外交努力をしたのか皆目わからない。自民党の塩崎恭久元官房長官に、集中審議で、
「あらゆることを検察が決定したと押し切ろうとしているが、それなら民主党政権は外交を検察に任せる珍しい政権だ」と皮肉られても仕方なかった。
中国専門家によると、今後日中摩擦はフェードアウト(映像や音が次第に消えていくこと)するそうで、すでにその流れになっている。だが、あとに残された傷跡は決して浅くない。
日本はこれまで以上に<外交弱小国>とみられることになった。(敬称略)
杜父魚文庫

コメント

  1. すみこ より:

    中国の尖閣侵略問題で全ての国会議員、マスコミ、政治学者、民主党支持の国民に問いたい。
    あなたたちはもし中国が日本に対し核兵器使用の恫喝で挑んできた場合どうするのですか? 人の命は地球より重い。命は宝といって屈服するのですか?
    事態はそこまで来ているのですよ。
    評論家的無責任はゆるされないのですよ。

タイトルとURLをコピーしました