6385 中国は非軍事の「戦争」でも領土を広げる 古森義久

尖閣に対する中国の出方の分析です。米中経済安保調査委員会の報告からの紹介です。私の著書『アメリカでさえ恐れる中国の脅威!』からの引用でもあります。
中国は軍事手段以外にも多様な方法によって、自国の主権を拡大し、領土を広げていく大戦略を有しているのです。
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○非軍事手段での主権の保護と主張
主権の主張というのは他の諸国から認められて初めて、その価値を発揮することになる。一国がいくら高らかに、ある島の領有の主権を宣言したところで、他の諸国も、国際機関もそれをまったく認めないというのでは、主権は主権でなくなってしまう。
こうした単純な理由から中国も特定の領土の主権や統治を他国に認めさせるため、外交や政治の影響力を精力的に行使する。軍事力だけでも主権は守れないということだろう。
そのために中国は非軍事の活動 を野心的に続けている。拡大し、強化しているといえる。 
報告はこの点については中国の海洋戦略の専門家ピーター・ダットン氏の証言を引用している。ダットン氏はアメリカ海軍大学の准教授である。
ダットン教授は中国側の実際の動きだけでなく、軍や政府の専門家たちの論文、発言を基礎に、中国政府が主権の保 護や拡大のために、少なくとも三種類の非軍事の「戦争」を推進しているという分析を発表した。
その三種の非軍事の戦争とは、法律上の戦争、心理的な戦争、 そして世論獲得の戦争だという。
報告は述べる。
「これらの非軍事手段は巧みな外交活動、豊富な学術の著作、発言、大規模な情報操作などから成り立っている。これらの活動の焦点は基本的には中国の主権に関する種々の主張に対して国際的かつ国内的な正当性を作り出し、拡大していくことにある」
中国の学者が国際シンポジウムで尖閣諸島を自国領土だと主張することは典型的な非軍事の主権拡大戦争となる。その標的はケースごとにしぼられる。
だが究極の標的はアメリカだというのである。
「中国の非軍事戦術は自国の主権に対し重大なチャレンジを突きつけているとみなす国々に対してまず実行される。だが中国政府が究極的に最大の標的とするのはアメリカである。東西冷戦 後、中国は自国の領土の主権主張に対しアメリカこそが最大の脅威になっていると判断しているのだ。
中国は冷戦終結後、外部世界との関与を広めたが、同時に アジアでのアメリカの動きを軍事プレゼンスの拡大として懸念するようになった。そしてアメリカの動きへの対抗策として、他の諸国とのきずなの強化や緩衝地 域の設定を試みるようになった。対外的に新たな原則や規範の打ち出し、新たな二国間、あるいは国際的な合意の締結などによりアメリカの活動を抑えようと努 めるにいたった。中国はその認識の適否は別にして
アメリカこそが中国の主権を侵害しようとしているとみているのだ。だからそのアメリカの活動を制限せね ばならないと考えるのである」
これは非常に重要な指摘である。中国とアメリカとはオバマ政権下では「G2」と呼ばれる緊密さを示す。少なくとも経済面でアメリカは中国に依存し、米中両大国が二極となって世界をリードし ていくような構えまでみせる。
ところが報告はここでまず中国が自国の主権の発揮にはアメリカこそ最大の障害になるとみている、というのだ。
同時にアメリカ側にも本音としては中国の主権の野心的な拡大は抑えねばならないとする認識が広範に存在する、というのである。
米中両国間の水面下の激しいせめぎあいとも いえる現実だろう。さて中国が推進する主権拡大のための三種の非軍事の「戦争」手段とはなにか。(つづく)
杜父魚文庫

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