日本の民主党の「公約」の一つに「緊密で対等な日米同盟関係」というのがあります。この「対等」という部分は二重三重の意味で虚言だと思われます。
日本の鳩山新政権はこのほか「緊密で対等な日米同盟関係」という標語を打ち出す一方、在日米軍地位協定の見直しや、日米間の核兵器持ち込みに関する密約の暴露までを求めた。
いずれも年来の日米同盟のあり方への批判をぶつける形となったのだが、とくに「対等な日米同盟」という概念は米側の関係者の反発を招いた。
なぜなら鳩山政権の言明は同盟への日本側の貢献をむしろ減らす動きばかりを示し、「より対等な」方向への動きは皆無だったからだ。
日米同盟はアメリカが日本の防衛を誓約しても、日本にはアメリカの防衛の義務はなく、実際の軍事寄与の規模をみても、アメリカがずっと大きく片務的であることは日本側でも認めている。
カーター政権以来、日米安保問題にかかわってきたジム・アワー元国防総省日本部長は以下のように批判した。
「日米同盟の現状では『より対等にする』といえば、当然、日本側が防衛面での活動を増すことを連想させるが、鳩山政権の動きはその逆の方向を指している。米軍基地の環境規制などで米側の負担をさらに増す措置しか求めていないのだ」
鳩山政権は日米安保協力の実務面でも後退する措置をとった。
政権誕生後すぐに民主党のかねての公約だったインド洋での海上自衛隊艦艇の他国への給油活動を打ち切ることを宣言したのだ。
この給油活動はアメリカをはじめとする有志連合諸国のアフガニスタンのテロ勢力側のタリバンやアルカーイダに対する闘争の後方支援だった。
日米関係ではアメリカの要請に応じて同盟パートナーとしての日本が協力を実行する「同盟の証」でもあった。
オバマ政権はアフガニスタンでの対テロ闘争に力を注いでいたから、日本の支援の停止にはあらわな非難こそしないにせよ、失望は明白だった。
民主党系のワシントン・ポストの外交コラムニスト、ジム・ホーグランド氏は「日本の措置はアメリカ主導のアフガニスタン作戦からの離脱であり、その動きだけでもアメリカにとってアジアで最重要な二国間関係である日米関係に悪影響を生むだろう」と主張した。(つづく)
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「日米安保協力の終わり」とは
民主党政権が昨年から今年にかけて、日米同盟をいかに危機へともたらしたか、そのプロセスを説明した古森論文の続きです。
鳩山氏が唱えた東アジア共同体というのも米側に反発を呼んだ。
この構想と併行して鳩山氏が示唆したアジアの集団的安全保障というのは、二国間安全保障である日米同盟をこれまた概念として否定するひびきがあった。
ましてアメリカの市場経済を「原理主義」と断じて、離反を宣言することは、これまでの日米の経済関係を概念的に否定する意味あいがあった。
鳩山首相のこうした言明と歩調を一にする形で民主党政権トップが表明し始めたのが「日米中正三角形」論だった。
小沢一郎氏がその先頭に立っていた。
本来な ら同盟パートナー同士の日米両国は緊密に連携し、軍拡を続ける共産主義の中国の潜在脅威に対処していくはずである。
だから中国との距離では日米中は「二等 辺三角形」となる。日米間の距離は短く、日米と中国との距離はともにそれより遠く、しかもが日中、米中間が等しい長さとなる。
つまり同盟国同士の距離は短いということだ。
ところが「日米中正三角形」論では三国はみな均等な距離にあるとするから、日米両国の特殊なきずなを無視することになる。
そもそも日本にとって有事には自国 の防衛にあたってくれる同盟国のアメリカと、領土紛争など対立案件を抱え、いざというときには領土や自然資源を略奪されかねない潜在脅威の中国とがまった くの等距離にあるはずがない。
それをみな等距離だと主張するのは日米同盟の概念や効用を無視するに等しい。
前述のホルムズ元国務次官補はこの点について以下のようにまで論評した。
「一般に同盟を支えるのは同盟する国家間の相互防衛協力の誓約と戦略認識の共有だが、鳩山首相の言明はそのいずれをも否定する形であり、このままだと日米安保協力の時代は終わりを迎える」(つづく)
杜父魚文庫
6414 「日米同盟をより対等に」という虚言 古森義久

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