6469 だれが相手の権力闘争か 岩見隆夫

教養人の仙谷由人官房長官にはめずらしく、対中弱腰外交批判に反論して、「柳腰というしたたかな腰の入れ方もある」と比喩(ひゆ)を間違えた。(12日の衆院予算委)
柳腰は美女のほっそりした腰つきのこと。だが、ついでに誤用させてもらうと、政界一の柳腰は民主党の小沢一郎元代表である。とにかく、しぶとい。
刑事被告人の席に座ることが決まって、小沢は事実上政治生命を失ったかにみえた。しかし、本人は戦意を持ち続けているらしく、何よりも政界が小沢離れしていない。
13日の衆院予算委で、自民党の鴨下一郎元環境相が「首相と民主党はなぜ小沢氏をかばうのか」と問うたのに対し、菅直人首相は、
「わが党の大変重要な仲間であり、大きな功績をあげたという共通認識がある。かばうというより、代表選で争ったからといって、過剰に何かするのはおかしい」などと煮えきらない。鴨下が、
「そういう言い方がかばっているということだ」といらだったのは当然だ。まさか、本気でかばうとも思えない。離党勧告などでけじめをつければ、代表選で小沢を支持した200人の衆参議員が反発するのを恐れているのか。菅は、
「これから本格稼働だ」と繰り返すが、小沢問題の呪縛にとらわれたままでは、政権にはずみがつかない。
昨年3月、小沢代表(当時)の公設第1秘書が逮捕され、疑惑が発覚してから約1年8カ月、当コラムも何回となく小沢問題を取り上げてきた。おさらいしてみると--。
▽「渦巻き蚊取り線香型」か(3・28)。ライシャワー駐日米大使が、日本の意思決定が遅いのを冷やかした言葉。秘書が起訴されても、小沢代表の進退が決まらない。
▽辞任の腹を括(くく)っている(4・11)。そうに違いない、という筆者の予測。5月、代表辞任。
▽なぜ禁止ばやりなのか(10・24)。鳩山政権下、小沢幹事長は政調会長ポストを廃止、与党代表質問、議員立法を禁止したりした。
▽「小沢恐怖症」を考える(10・1・16)。土地取引疑惑に検察のメスが入っても、民主党内は寂として声がない。
▽「最後の潮時」ではないか(5・1)。小沢不起訴のあと、検察審査会が<起訴相当>を議決、進退の潮時とみた。
▽小沢は身を引く時だ(6・5)。鳩山由紀夫首相と道連れで幹事長を辞任したが、さらに引退を求めた。
▽「小沢政治は卒業しよう」(8・7)。かつて小沢の友人だった自民党の加藤紘一元幹事長の呼びかけ。
▽権力闘争はもういい(9・18)。代表選で小沢が敗れたあとの実感だ。
--。批判と退場のすすめの連続だったことがわかる。筆者もそうだが、読者も最近は、<小沢一郎>の名前が出ると、辟易(へきえき)するものがあるに違いない。なにしろ、長く、菅が、
「クリーンでオープンな政治を」と訴えるのと、まったく逆の閉塞(へいそく)感にうんざりするからだ。このままでは、菅政権にも色がつく。
検察審が<起訴議決>を発表した4日、小沢は側近に、「これは権力闘争だ」と言って悔し涙を流した、と報じられた。40年間、柳腰でない二枚腰の権力闘争に明け暮れてきた小沢には、すべての異変がそう映り、身構える。政界はびくつく。
一体、だれを相手の闘争なのか。もういいかげんにしてもらいたい。(敬称略)
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました