ぜひとも多くの方に読んでいただきたいノンフィクション大作の紹介です。最近の日本の出版界では良質のノンフィクションが減っています。その理由は多々あるでしょうが、今回、あっと驚かされるほど奥行きが深く、なおおもしろい力作に出会いました。
『特務機関長 許斐氏利』(ウェッジ刊)、著者は牧久氏です。副題は「風淅瀝(せきれき)として流水寒し」となっています。
「北一輝のボディガードを務め、戦時下の上海・ハノイで百名の特務機関員を率いて地下活動に携わる。戦後は、銀座で一大歓楽郷「東京温泉」を開業、クレー射撃でオリンピックにも出場した、昭和の“怪物”がいま歴史の闇から浮上する」
「戦前は特務機関、戦後は実業人として、昭和を駆け抜けた男の軌跡」「博多の暴れん坊――この破天荒な生涯」
この書の主人公の許斐氏利氏といえば、知る人ぞ、知る、表の顔はまず日本の射撃のオリンピック代表、日本の射撃連盟の会長でもあった人物です。
ビジネスマンとしては東京駅の八重洲口前にあった「東京温泉」の開設者です。しかし戦前、戦中の許斐氏は日本軍の特務機関のアジア各地での指揮者だったというのです。そのいくつもの顔を持った昭和の怪人物、あるいは快男児の一生を克明に、かつドラマ的に追ったのがこの書です。
この書の取材は広範かつ深遠、文字どおり「地を這うような取材でのノンフィクション」といえましょう。近年ではこれほどの質の高い日本のノンフィクション作品にほとんどお目にかかれません。
筆者は日本経済新聞のベトナム特派員や社会部長を務め、最後は副社長にまでなった牧久氏、私にとってはベトナム戦争の最終段階とその後の苛酷な共産主義革命をともに体験した旧友です。いまでは一兵卒のジャーナリストとなって、活躍しています。ただし友人の作品だからほめるわけでは決してありません。数ページを読んだだけで、引き込まれるおもしろさなのです。
杜父魚文庫
6548 特務機関から「東京温泉」へ――昭和の激動を駆け抜けた男 古森義久

コメント
許斐氏利の三男で氏康と申します。母は立石迪子(みちこ)と申します。私は大田区久我原の家で母と正妻富喜子さんと他の兄弟と共に4歳まで過ごし、その後港区赤坂で父母と共に育ちました。私は母共々、父が他界する迄、父を中心に久我原の家族とはいつも外食や旅行を共にしておりました。牧久様の著書に母は1カ所のみ「迪子おばちゃま」として登場します。現在の世間常識から見ると異常に映る家庭かも知れませんが、親たちはそこに生じる人間の葛藤を私に感じさせる事無く、子供として大変幸せに育ててくれました。
冒頭に余計な事を述べまして恐縮でございましたが、久我原の家と私共の赤坂とに1日ずつ交互に帰宅する父に溺愛され、甘やかされ、父の過去の奥深くを知らずに成長した私が、父の死後、世間の父に対する評価を目の当たりにした時の驚きと落胆は大きいものでした。酒を酌み交わすようになった父から、そして父の旧友、取り巻きの方々から聞いていた実績、人物像とは大きな開きがあったからです。世間一般のそのような興味本位で好奇に満ちたイメージ、点と点を繋げたような評価を一掃し、私が生前の父から聞いていた話とほぼ一致する史実と評価を世間様にお示しくださったのが牧久様です。本当に幾ら感謝してもしきれないという気持ちでございます。牧様に直接お礼を申し上げたいとは思っておりましたが、何か厚かましいようにも思い、未だご連絡申し上げておりません。今、貴殿のHPを開いてコメントを読ませていただき、嬉しく、衷心より御礼を申し上げたく、一言コメントさせて戴きました。ありがとうございました。
許斐 氏康
自宅:品川区旗の台5-11-7
勤務先: 株式会社日本ピーエムアール
代表取締役
Tel: 03-3505-2301 Mobile: 090-1840-2572
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