尖閣ビデオの流した海上保安官が「自分が映像を流出させた」と上司に名乗り出たが、この上部責任問題で一気に政局は緊迫の度合いを深めている。
この犯行は単純な”愉快犯”の仕業なのか、菅内閣に対する実力部隊の情報クーデターの一種なのか、まだ分からない。しかし仙谷官房長官が「由々しき問題だ」と言明したことは、少なくとも政府部内では後者とみている証拠である。
またこの海上保安官は「あれを隠していいのか。この映像を国民は見る権利がある」と語っているという。さらには「誰にも相談せずに1人でやった」とし「わたしがこういう行為に及ばなければ、闇から闇に葬られて跡形もなくなってしまうのではないか」と政府に対する不信感をあらわにしている。
海上保安庁は単なる海の警察と思われがちだが、米国のコースト・ガードと同じ海の実力部隊。実際には海上自衛隊よりも、海の国境警備では正面に出ている準海軍といえる。その準海軍で政府に対する情報クーデターが起こったとなれば影響は大きい。単なる国家公務員法違反では済まされない。
野党は準海軍の規律問題で海上保安庁長官の責任はもちろん、所管する馬淵澄夫国土交通相の責任問題、情報公開せずに、ここまで問題を大きくした仙谷官房長官の責任を追及、参院で国交相と官房長官の問責決議案提出を検討し始めた。
いったんは15日に衆院で補正予算案を可決、参院に送付することで合意をみた国会日程も白紙化される可能性も出た。仙谷官房長官は海上保安庁長官の責任にとどめ、閣僚の辞任には及ぼさない意向を示しているが、勢いづいた野党は納得する様子がない。
しかも名乗り出た海上保安官を逮捕、起訴しても公判で有罪に持ち込めるか法律専門家の間で疑義が生じている。代わって閣僚の政治責任に議論が集中すれば、菅内閣に与える影響は大きい。
<海上保安官が中国漁船衝突事件を撮影したビデオ映像を流出させたと申し出たことで、野党各党は10日、海上保安庁を所管する馬淵澄夫国土交通相らの自発的辞任を暗に求め、監督責任を徹底追及する方針を明らかにした。これに対し、菅直人首相は、捜査の行方を見ながら、監督責任について判断する考え。野党側には、
国交相の問責決議案提出を検討する声もあり、進退問題に発展する可能性も出てきた。
自民党の石原伸晃幹事長は10日午後の党全国政調会長会議で、「仙谷由人官房長官と馬淵国交相の責任は極めて重く、責任を追及していくことを約束する」と強調。参院国対幹部は「(2閣僚が)責任を取らないなら問責を出す」と述べ、国交相らが自発的に辞任しない場合、問責決議案を参院に提出する可能性に言及した。
公明党の山口那津男代表は記者団に「職員の容疑が裏付けられれば、所管するしかるべき人たちの責任が問われることになる」と述べ、国交相の責任は免れないとの見解を表明。みんなの党の渡辺喜美代表も記者団に「出すべきものを出さずにこういう結果を招いた官房長官の責任は重い」と指摘した。
国交相らが引責辞任に追い込まれれば、首相には大きな打撃となり、政権運営に厳しさが増すのは避けられない。首相は衆院予算委員会で、国交相らの責任に関し「もう少し捜査の結果がはっきりした段階で、検討、議論する必要がある」と述べ、事実関係が明確になった段階で判断する意向を明らかにした。自民党の小泉進次郎氏への答弁。
仙谷長官は記者会見で、「政治職と執行職のトップで責任の在り方は違う。強制力を執行する部局だから、強い権限の代わりに重い責任となる」と、海上保安庁長官の責任がより重く、国交相は辞任する必要がないとの考えを示唆した。(時事)>
杜父魚文庫
6647 海上保安官の自供で監督責任が浮上か 古沢襄

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