「尖閣ビデオ」流出事件はいったい「犯罪」なのかどうか。そこをあれこれ考えている。仙谷官房長官などはやたらと意気込んでいるが、政府中枢が自らの失態を棚に上げて、あたかも凶悪犯罪であるかのようなイメージづくりに躍起となるというのであれば、これはおかしい。
犯罪はあくまで法にのっとり、捜査当局の冷静な捜査によって得られた証拠によって、摘発される。政府中枢がいきり立つと、民主主義をゆがめることになる。
かつて東大全共闘の闘士であった仙谷氏が、その信奉していたであろう社会主義国家に見られるような「政治主導」による犯罪の立件に加担しているかのような雰囲気はないか。そこは厳に戒めるべきだ。捜査当局が乗り出した以上、ここは捜査のプロに全面的に任せるほうがいい。
とはいえ、船長釈放を那覇地検の「外交的」判断にゆだねたのが現政権だ。そこになんともあやうい体質がにじみ出てくる。
ビデオをユーチューブに投稿した神戸海上保安部の43歳の海上保安官に対する容疑は、国家公務員法違反、つまり守秘義務違反だ。
国家公務員法はこう規定している。<第100条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。>
このビデオは海上保安庁の内部だけの通信回線で結ばれたパソコンで、全国の保安部で見ることが可能だったようだ。現に流出ビデオは職員研修用に編集されたものという。なにやら、「秘密」のレベルが下がってくるではないか。
役所の書類には「秘」のハンコが押してあったりするが、このビデオもそういう扱いになっていたのかどうか。法務省の西川克行刑事局長は11日の参院法務委員会で、刑事訴訟法47条に該当する「訴訟に関する書類」であると答弁した。
刑事訴訟法47条を見よう。<第47条 訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。>
公判開廷前には公にしてはいけないという意味での「秘密書類」であったということになる。船長は釈放されているのだから、公判は開かれない。そこに整合性の欠落が生じる。
さらに、「公益上の事由」があれば公にしてもかまわないと読める条文だ。ビデオ流出は、国民の関心を集め、その「知る権利」を満たし、さらに全世界に中国側の非を知らせることができた。これ以上の「公益」はあるか。
といったことを考えていると、どうにも「犯罪」要件に欠けるように思えてならないのである。さて、捜査のプロはそのあたりの疑問をどう解いてくれるか。
杜父魚文庫
6657 「尖閣ビデオ流出」は犯罪なのか 花岡信昭

コメント