6689 畏友・柳腰さんが説く「国民の憤激」の理由 阿比留瑠比

中国漁船衝突事件の映像をインターネット上に公開した海上保安官について、捜査当局は「誰が見ても、明々白々に罰せられるべき事件とは言えない」として「逮捕」を見送りました。「大阪地検特捜部の事件に匹敵する由々しい事案だ」と国策捜査をけしかけていた仙谷由人官房長官は不満たらたらのご様子ですが、今回の事例は、知る権利の確保を求める国民の意識・良識が、菅政権の「保身」を許さなかったという一大快事だと考えます。
今朝の朝日の記事によると、仙谷氏は周囲に「なんで身柄が取れないんだ」と漏らしていたそうですが、私が11日付のエントリ「仙谷氏の思惑通りにはもう物事は進まない」と書いたように、事態はもう彼の自分勝手な都合とは違うレベルで動き出していますね。参院での問責決議の扱い次第では政局は流動化しますし、民主党の一年生議員もこんな話をしています。
「この政権はもう終わっている。何やらせてもダメなんだね。一年生同士で飲むとそんな話ばかりしている」
そこで本日は久しぶりに私の心から尊敬する畏友であり、すんなりとした腰つきが色っぽい「柳腰さん」に登場してもらい、菅政権の現在のていたらく、就中、仙谷氏がどうしてこうなのかについて語ってもらいました(出典はみな柳腰さんの著書「想像の政治 政治の想像」、現代の理論社、1992年刊)。柳腰さんは期待通り、現状を適切かつ冷静に分析してくれました。
私 仙谷氏は、国会で自分が厳秘の資料を広げているところを写真に撮られると「盗撮」と呼び、取材規制を言い出しました。答弁でも相手を恫喝したり、カメラマンをにらみつけたり、常軌を逸した態度をとっていますが、国会での報道のあり方はどう考えればよいでしょうか。
柳腰さん どのような表情や態度で答弁したかということも極めて重要な要素となる。国会における証人喚問で摘出される事実を評価するのは国民であって、国民の前に言葉のみではなく、表情や答弁の態度までも明示することこそが重要である。テレビ放映の画像禁止はお上意識の表れでしかないとして強く批判されなければならない。
私 なるほど、もともと国民に広く公開された場で、しかも正式の許可を取って取材活動している相手を侮辱し、謝罪もしないその表情や答弁の態度は今後も克明に報じるべきですね。ところで仙谷氏は国会や記者会見で、とにかくその場をしのげればいいとばかりに嘘や強弁、言い逃れでごまかそうとします。柳腰さんはどうお考えですか。
柳腰さん イギリスでは政策と討論術で議員の評価が決まる。言論の優劣の価値基準は、個人的に言い負かしたとか、声の大きさではなくて、国民の目、一週間ずつ出る世論調査の結果として表れる。
私 日本でも、フジテレビの新報道2001の世論調査では、ここ5週間で菅内閣の支持率は35ポイントも下落しています。今朝の朝日の調査では、内閣支持率は27%でした。やはり、菅政権の外交姿勢、中でも漁船衝突事件に見られる隠蔽・責任転嫁体質が失望を招いていると思いますが。
柳腰さん 国民が一番怒っているのは、山県有朋の〝知らしむべからず、依らしむべし〟といったやり方、国民に嘘を言い、だまして、なし崩し的に消費税を導入しようとした公約違反の手法に対するものだ。国民の戦後の民主主義感覚が、この手法に憤激したのだとみている。
私 確かに、菅首相の参院選前の消費税発言は、それまでの民主党の主張とは食い違い違和感がありました。それにしても、民主党政権の密室政治、隠蔽体質は度し難いですね。
柳腰さん あくまで開かれた政権政党を目指すべきで、国民のなかでどれだけ多数派を形成できるかが重要。自己満足や独りよがりではない思考が、とりわけ政治に携わる者のより重い感性が問われている。
私 そうですね。その意味でも、衝突事件の映像は国民に全部公開するべきですね。そして、政府も国民もともに考えていくのが望ましい。
柳腰さん 〝われわれがきちんと検査してるんだから、君らにはわからなくていい〟という官僚システムの下では、国民は成長しない。お上にいつまでも過保護を要求しつづける国民は、いつまでたっても被害者でしかありえない。
…いかがでしたか。柳腰さんのいつもながら明晰で物事の本質をとらえた指摘に、私は一つひとつ頷かされました。きょう、西岡武夫参院議長は記者会見で漁船衝突事件をめぐる仙谷氏の対応について「責任が問われてしかるべきではないか。官房長官の責任が重い」と述べましたが、仙谷氏にはぜひ、柳腰さんの言葉をかみしめてほしいところです。無理でしょうが。
杜父魚文庫

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