6704 小沢一郎氏の政局観 古沢襄

ベテランの政治家になると”政局観”という言葉をよく使う。一年生議員や二年生議員は毎晩のように流れる”永田町情報”に浮き足立ってウロウロするのがオチだが、当選一〇回ぐらいのベテランになると、あまたある政界情報を読み解き、政局の行方を自分なりに判断する。これが”政局観”である。
駆け出しの政治記者も洪水のように流れる政界情報を夜討ち朝駆けで追うのが精一杯だが、10年以上も政界の荒波をくぐり抜けてきたベテランの政治記者になると、その”永田町情報”の中から本筋の流れを嗅ぎわける術が身についてくる。こういうベテランは政界の実力者と一対一で禅問答のような話をしている。皆で渡れば怖くないない式の多人数の懇談には背を向けている。
基本的には政界の実力者は本音は言わない。むしろ平気で嘘を言うと思っていた方がいい。ペラペラ喋る政治家を本気で信じていたら瞞される。政治の動きは毎日のように変わり、川の流れのように変化するものだから、一夜で洪水が押し寄せることもある。
それを”潮目”と言っている。政局のフシ目といってもいい。民主党政権で政局のフシ目を読めるのは、小沢一郎氏と仙谷由人氏ぐらいだろう。自民党なら小泉純一郎氏と野中広務氏ぐらいか。いずれも政治の表面から退いている。今太閤といわれた田中角栄氏も”政局観”では政界の第一人者だったから、総理大臣にまで駆け上った。
国会論戦で仙谷官房長官が自衛隊は”暴力装置”と口を滑らせて、野党から猛攻撃を受けたが、これで堤防が決壊し大洪水が起こると思うのは素人考えである。堤防はジワジワと崩れてくる。たしかに菅政権という堤防は、あちらこちらに亀裂が生じている。だが、まだ決壊には至っていない。
小沢氏はこの堤防が崩れる兆しを、独特の”政局観”で感じ取っているのだろう。16日夜には鳩山グループの松野前官房副長官を交え、新人議員との懇談会を持ったり、17日夜には細野前幹事長代理ら中堅・若手議員約15人と懇談した。18日夜には小沢グループ直系の新人議員グループの会合で「破れかぶれ解散の可能性がある」と述べている。忘年会にしては早過ぎる動きである。
”破れかぶれ解散”というのは、小沢氏流の表現だが、菅政権の軍師である仙谷官房長官は破れかぶれで解散するつもりはない。自殺行為になるからである。むしろ解散を菅首相に勧めるのなら、選挙で民主党が第一党を維持し、過半数を確保できるのか、慎重に見定めているところであろう。
このまま菅政権が際限のない支持率低下で苦しめば、政権の寿命は徐々に尽きてくる。局面打開のために解散・総選挙に打ってでて、過半数を維持できれば、議席数を減らしてもひとつの打開策になる。合わせて小沢グループの数を減らせば、党内基盤は安定化する、と読んでいるかもしれない。
大博打だが、それが可能な菅政権の体力が残っているのか、仙谷官房長官はひそかに考えている可能性があり得る。選挙に独特のカンを働かせる小沢氏は、それを”破れかぶれ解散の可能性”とみた。「今解散すれば、(新人議員は)一人も残れない」と危機感をあらわにしている。果たして小沢氏の政局観が当たるのか、どうか。
<民主党の小沢一郎元代表は18日夜に開いた自身を支持する新人議員グループの会合で「破れかぶれ解散の可能性がある」と述べ、政権運営に行き詰まった菅直人首相が早期の衆院解散に踏み切ることもあり得るとの見方を示した。出席者が明らかにした。 
小沢氏は菅政権を取り巻く状況について「厳しい」と指摘。「今解散すれば、(新人議員は)一人も残れない」などと語ったという。(時事)>
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