ワシントンの古森義久氏は「北朝鮮の砲撃がオバマ政権を揺さぶる」と題して次の様な解説をしている。
<<米国のオバマ政権は北朝鮮軍による韓国の延坪島への砲撃事件に対し23日、北朝鮮の行動を非難し、同盟国としての韓国の防衛の誓約を言明しながらも、軍事衝突の拡大を防ぐ姿勢を明確にした。
だが北朝鮮が核兵器開発につながるウラン濃縮の新施設を誇示した直後に砲撃を実行したことは核問題での北の姿勢のさらなる硬化と挑発であり、米国はこれまでの対北朝鮮政策の根幹からの変更を迫られることともなろう。>>
これを私なりに解説を加えると、「北朝鮮の延坪島砲撃で一番困惑しているのが中国」ということになる。北朝鮮の冒険主義的な攻撃によって、米国はこれまでの対北朝鮮政策を根幹からの変更し、延坪島への砲撃事件を口実にして米第七艦隊の空母機動部隊を黄海に出動させた。大手を振って中国の海ともいえる黄海に米空母機動部隊が入ることを許してしまったのは、中国の国防上、由々しき問題である。
また韓国は延坪島はじめ西海(黄海)五島の防衛陣地を要塞化し強化するであろう。これは中国にとって黄海の出口を封鎖されるに等しい。韓国海軍は日本海よりも黄海の海域に艦艇の強化措置をシフトしてくるのは明らかである。軍事的にみれば北京の入り口を米国と韓国に封鎖される事になるから中国は容認できない。
中国の困惑が予想されながら、北朝鮮はあえて延坪島という陸地攻撃をしたのであろうか。砲撃の理由は韓国海軍が北朝鮮の領海に艦砲射撃したといっているが、それなら海上砲撃にとどめるべきである。
これは今月12日に寧辺のウラン濃縮施設をヘッカー米スタンフォード大教授に見せたことと関係がある。米朝二国間協議を狙っている北朝鮮は、2000基の遠心分離機を見せることによってオバマ政権に揺さぶりをかけた。古森義久氏のいう事が当たっている。
しかし金正日総書記は米国がウラン濃縮施設にピンポイント空爆してくることを怖れたのであろう。ブッシュ政権下のイラク戦争でイラクのフセイン元大統領や幹部がピンポイント空爆に遭っている際、金正日総書記は長期に渡り身を隠していた事実がある。
米朝二国間交渉しか考えていない北朝鮮の手前勝手な理屈になるが、金正日総書記は延坪島砲撃という世界を驚かす行動にでて、ウラン濃縮施設にピンポイント空爆をしてくれば、ソウルを火の海にする攻撃力があると誇示したのであろう。典型的な瀬戸際外交である。
中国もいつまでも困惑しているわけにはいかない、米国はイスラエルの様な冒険的なピンポイント空爆は考えていないだろうから、そこは中国に北朝鮮の冒険主義を抑えて貰う腹でいるのだろう。中国にとっても米第七艦隊の空母機動部隊がいつまでも黄海にいて貰っては困る。米中交渉はこれからだが、どこかで接点を求めねばならない。
ただ北朝鮮が図に乗って、米空母機動部隊に海岸砲で攻撃をかけたら、搭載しているトマホークの反撃を受けるのは避けられない。局地的な戦闘とはいえ楽観視できない。このあたりが読めないところに北朝鮮の薄気味悪さがある。
杜父魚文庫
6755 一番困惑しているのが中国 古沢襄

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