さあて、世の中いろいろなことが動いていて、取り上げたい出来事はたくさんあるのですが、今回は自民党の丸山和也弁護士が、仙谷由人官房長官に対し、3000万円の損害賠償を求める訴訟を起こした件にスポットを当てようと思います。この問題をめぐる仙谷氏の発言は、菅政権のあり方、外交を考える上で示唆に富んでいて、このままあいまいにしておきたくなかったからです。
法廷で、さまざまな事実が明らかになることを期待します。訴えられた当事者である仙谷氏もきょう午後の記者会見で、丸山氏の提訴についてこう述べました。
「訴状を見ておりませんので。訴状が送達されましたら拝見して、丸山さんも法律家、こちらも法律家ですから、正々と粛々と、裁判所で、何て言うんですか、処理をしていただくと。こういうことになるんじゃないでしょうか」
なるほど、まだ訴状を見ていないというわけですね。それでは、先ほど社会部の司法記者クラブから訴状のコピーをファクスしてもらったので、ここで紹介したいと考えます。全文は長いので、多少端折ることをご容赦ください。
第1 請求の趣旨(略)
第2 請求の原因
1 当事者(略)
2 侮辱行為
(1)本件は、被告仙谷が、記者会見において、原告の参議院第176回国会決算委員会(以下「参院決算委員会」という。)における発言に関して、「こういういい加減な人のいい加減な発言については全く関与するつもりはありません。」と述べて、原告を侮辱した行為について、損害賠償及び謝罪広告を求めるものである。以下、当該侮辱発言に至る経緯を述べる。
(2)参院決算委委員会における原告及び被告仙谷の発言
参院決算委員会の委員である原告は、平成22年10月18日の同委員会において、内閣官房長官の立場で出席した被告仙谷に質疑し、その中で、尖閣諸島沖で中国漁船船長が自船を日本巡視船に衝突された事件で逮捕された同船長が処分保留で釈放された件に関し、被告仙谷が、原告との電話で発言した内容を引用した。
すなわち、当該電話で、原告が、法に従って粛々とやると言った以上、少なくとも、中国人船長を起訴し判決をとってから送還すべきだった旨述べたのに対し、被告仙谷は「そんなことをしたらAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が吹っ飛んでしまう」と発言したこと、及び、原告が、こんなこと(処分保留で釈放してしまうこと)をしていたら、将来日本は中国の属国になっていくのではないかと述べたことに対し、被告仙谷は「属国化は今に始まったことじゃないよ」と発言したこと等である。
ところで、本件電話は、原告から被告仙谷への中国人船長釈放に対する抗議の電話であり、その内容は上記のとおりであり、いわゆる当事者間の私的な内容やプライベートに関するものは一切含まれていなかった。
原告の質疑に対し、被告仙谷は、同委員会の場においては「最近健忘症にかかっているのか何か分かりませんが」電話でそのような会話をした記憶は全くない旨答弁した。
上記委員会における中国人船長釈放の件についての原告と被告仙谷との質疑、答弁の内容は、国民の関心事であり、広くテレビ、新聞等のメディアによって報じられた。
(3)記者会見における被告仙谷の侮辱発言
ところが被告仙谷は、平成22年10月19日午前の閣議後に行った記者会見の際には、前日の参院予算委員会での応答とはうってかわって原告の質疑について、「こういういい加減な人のいい加減な発言については全く関与するつもりはありません」と発言(以下「本件侮辱発言」という。)した。
本件侮辱発言は、テレビ、新聞に取り上げられて、大きく報道され、原告がいい加減で、いい加減な発言をするという印象を全国民に植え付けた。
本件侮辱発言中、「いい加減」という価値判断は、原告に向けられた悪質な人格否定表現であり、原告の社会的評価を低下させる侮辱にあたり、民法上も国家賠償法上も当然に違法である。
被告仙谷は、上記委員会での質疑に対し、委員会外で原告の人格を中傷するという手段で抵抗したのである。事の真偽を明らかにしたり、主張に反駁したりするのではなく、単に発言者の人格を攻撃して貶めるやり方は、およそこの国の政権の中枢を担う者にはあるまじき行為であって、公的な記者会見の場で行うべき発言では絶対にない。これは、原告に暴露された内容が、内閣官房長官という立場上不都合な内容であったためにとった矮小な自己保身、報復行為といえる。
そもそも、健忘症なのか原告との会話内容の記憶がないなどの実にふざけた答弁をしたのは被告仙谷であるにもかかわらず、逆に質問者の原告を「こういういい加減な人」などと中傷することは、本末転倒も甚だしく断じて許されるものではない。
3 被告らの責任
(1)被告国の責任(略)
(2)被告仙谷の責任
上記のように、被告仙谷の本件侮辱発言は、明らかに故意になされたものである。しかも、マスメディアも官房長官発言として全国報道することを余儀なくされる記者会見の場を奇貨とし、報復及び自己保身のために、これを利用したものである。(中略)
また、本件侮辱発言は、刑法上の侮辱罪にも該当すべき重大な違法性を有する。そして、被告仙谷は、国会議員かつ国務大臣であると同時に、弁護士資格も持っており、本件侮辱発言の違法性を明確に認識した上で発言している。(後略)
4 損害
被告仙人の本件侮辱発言は、同日中に全国に報道され、広く国民の知るところである。これに対し、被告仙谷からは今日まで原告に対する正式な謝罪もない。
原告は、被告仙谷の侮辱発言及びその全国報道によって、深い屈辱感、不快感等の精神的苦痛を味わった。
また、原告は、国会議員、弁護士及びマスコミ人として、いずれも社会的信用、評価という起訴の上に活動しているところ、政権の中枢人物による本件侮辱発言である「いい加減な人」との評価は、原告の信用の土台を著しく毀損するものであり、原告の地位の低下を招いたことは明らかである。これら一連の精神的損害が3000万円をくだることはない。
5 謝罪広告の必要性(略)
6 まとめ(略)
…いかがでしょうか。自民党内では、丸山氏は「ちょっと偏屈な人。一匹狼」(ある参院議員)といわれていますが、その丸山氏の怒りが伝わってくるような訴状ですね。仙谷氏が述べたというAPEC最優先の発想や中国の属国化を容認するような発言の真実性と背景が、この訴訟によって明らかになることを期待します。
それにしても、仙谷氏って、どうしてこういつもいつも、自分で敵を増やし、自分の首を絞めるような言動をとるのでしょうね。今国会では、あれほど民主党と連携したがっていた公明党を、かえって遠ざけるようなやり方ばかりしていましたし。28日付の読売新聞のコラムが、仙谷氏のことを暴力装置ならぬ「暴言装置」だと書いていましたが、ホント、そんな感じですねえ。
中国に対しては柳腰で誘いをかける媚びを見せるのに、国内ではやたらと無意味に突っ張っては事態を混乱させ、どんどん悪くして…。この人は、いったい何がしたいのだか。
杜父魚文庫
6791 自民・丸山氏が仙谷官房長官に損害賠償を求めた「訴状」 阿比留瑠比

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