6827 鰰(ハタハタ)の季節 渡部亮次郎

わが郷里秋田では、11月に入ると霙(みぞれ)の毎日だったが、大人たちは鰰(はたはた)の接近を待った。民謡「秋田音頭」にある如く男鹿半島などに来る。
但し私の生まれ育ったところは男鹿半島の付け根にできた汽水湖八郎潟の沿岸だったから、鰰の接近を目にすることはできなかった。産卵の為秋田県各地の沿岸に来る雌の後を追ってきたオスが受精させるべく行動を起こすので海は真っ白になるという。
今年(2010)もすでに東京・日本橋のデパート地下では鰰が売られているそうだから、秋田ではそのシーズンに入ったということだろう。
ハタハタの卵は「ブリコ」と呼ばれる。ハタハタ漁の時期、雌の多くは直径2~3mmの卵をたくさん腹に抱えており、この卵の周りはヌルヌルとした感触をもった粘液で覆われている。
生のハタハタを焼いた場合、この卵の固まりをかじると口の中で小気味よくプチプチとはじけてうま味が広がる。
塩漬けや味噌漬けにして保存したハタハタの場合、卵の皮がゴムのように硬くなり噛むと顎が疲れるくらいになる。このくらい皮が硬くなると、噛んだ時の音が「ブリッブリッ」という鈍い音になる。これが「ブリコ」と呼ばれるゆえんである。
秋田音頭の歌詞に出てくる「男鹿で男鹿ブリコ」のブリコとはこれのことである。
残念ながら八郎潟沿岸では鮒や鯰が安くふんだんに手に入るので、鰰には余り縁がなかった。たまに串焼きしたのを食べたのは子供のころ。魚醤の汁に切り身をいれたしょっつる鍋を秋田市川反(かわばた)の料亭で食べたのは50歳ごろだった。
鰰の英名は Sailfin sandfish だそうだ。
体長20cm程になり、水深0~約550mまでの泥や砂の海底に生息する深海魚。生息域は太平洋北部、特に日本海、オホーツク海、アリューシャン列島など。
秋田県の県の魚に指定されている。主に食用で、しょっつると呼ばれる魚醤で親しまれる。
秋田県では雷の鳴る11月ごろに獲れるのでカミナリウオの別名で呼ばれる。一般にハタハタは漢字では「鰰」(魚偏に神)と書くが、上記の理由から「魚偏に雷」と書く場合もある。また、冬の日本海の荒波の中で獲りにいくことが多いから「波多波多」と書くこともある。
北日本日本海側では底引き網などで獲れる。一時期漁獲量が極端に減少したことを受けて漁獲制限や卵からの孵化、放流事業が行われ一定の成果を収めている。
近年、北朝鮮、韓国からの輸入も増えているが地域に密着した食材であることから高価であるにもかかわらず国内産の人気は高い(1990年代後半、北朝鮮産ハタハタに重量水増しのため石が詰められていたという事件の影響等も否定できない)。
1970年代までは秋田県において大量に水揚げされ、きわめて安く流通していた。あまりの安さに、一般家庭でも箱単位で買うのが普通であった。
冬の初めに大量に買ったハタハタを、各家庭で塩漬けや味噌漬けにして冬の間のタンパク源として食べていた。1980年代に急激に漁獲量が減り、現在では高級魚として高値で取引されている。
1992年9月から1995年8月まで全面禁漁を行ったことも影響したのかここ数年は産卵のため浜に大量に押し寄せて来る姿が見られ、当時の賑わいを取り戻したが遊漁者の転落死亡事故が多発するなどの問題も発生している。
ハタハタの干物食べ方は塩焼き、田楽、ハタハタ汁など。ハタハタ寿司はなれずしの一種で、保存食となる。鱗が無いことと小骨が少なく脊椎も身から簡単に離れるため、一匹丸ごとかせいぜい頭を落としただけの状態で煮たり焼いたりすることが多い。鮮度のよいハタハタを焼いた場合、尾びれの付け根で骨を折っておくと頭のほうから脊椎が全部きれいに抜け食べやすい。
塩蔵したものや味噌漬けにしたものを煮たり焼いたりして食べることも多い。これらはタンパク源が少なくなる雪国の冬を乗り切るための重要な食材であった。
ハタハタを塩漬けにして発酵させたものは「しょっつる」(塩魚汁または塩汁)と呼ばれる魚醤となる。これを用いてハタハタ、野菜、豆腐などの「しょっつる鍋」をつくる。
秋田では醤油や魚醤による鍋のことを「かやき」と呼ぶため、しょっつる鍋もしばしば「しょっつるかやき」と呼ばれている。なお、「かやき」は大きな貝を鍋代わりに使う意味の「貝焼き」が訛ったものと思われる。
秋田弁では「ハタハタ」の「タ」の音は鼻濁音で発音される(鼻に息を抜きながら発音される)。このため、しばしば「ハダハダ」という音に聞こえる。
秋田では関ヶ原の戦いで佐竹氏が秋田に移封してきた年以降大漁になった事から「サタケウオ」とも呼ばれ、秋田に移った佐竹氏を慕って水戸からやって来たとの伝説がある。出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
杜父魚文庫

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