6856 芥川「侏儒の言葉」と民主党の政局と 阿比留瑠比

《小沢一郎は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのはばかばかしい。重大に扱わなければ危険である》
《民主党は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称し難い。しかしとにかく一部を成している》
芥川竜之介の「侏儒の言葉」からの引用です。いや、すみません、「人生」とある部分を勝手に「小沢一郎」、「民主党」に置き換えてみました。最近の小沢一郎元代表をめぐる党内抗争や、菅内閣のふらつきを見ていて、なんか上の言葉がぴったりだなあと感じているもので。
特に最近の小沢氏の動向を見ていると、その焦燥ぶりがありありと伝わってきますね。私はこの人については9月の代表選以降、「もう終わった人」だとみてほとんど取り上げてきませんでしたが、ばかばかしくても、重大に扱わなければ危険な側面も確かにあるので、今回はちょっと整理してみます。
ここ数日の小沢氏をめぐる民主党内外の動きを産経紙面からざっと拾うと…。
7日
・小沢氏、自らに近い中堅・若手議員と会食し、「年内にみんなが意見を言う両院総会のような場を設けたほうがいい」「代表選のとき、鳩山さんも輿石さんも僕も協力すると言ったのに排除されている」と不満を表明・菅直人首相、東京・赤坂の焼き肉店「叙々苑 游玄亭赤坂」で食事
8日
・森裕子、谷亮子両氏ら参院の中堅・若手9人が幹事長室にアポなしで乗り込み、小沢氏の国会招致を目指す岡田克也幹事長に対し「今は党内が一致結束すべきだ」と訴える。
・小沢氏を支持する衆院1回生でつくる「北辰会」の幹部ら約10人が国会内で会合を開き、「このままじゃただじゃ済まない」と気勢を上げる。
・小沢氏、鳩山由紀夫・邦夫兄弟、新党改革の舛添要一代表と会食し、「(菅首相は)おれたちを切って、政権を浮揚させようとしている。民主党への愛着はある。民主党が今の形で政権を維持させなければいけないと思う。しかし、それがどうしようもなければ、次のことも考えないといけない」と新党結成に含みを漏らす。・菅首相、ホテルニューオータニのバー「ザ・スカイ」で食事
9日
・北辰会のメンバー約20人が国会内で集まり、松木謙公農水政務官は岡田氏の小沢氏国会招致方針について「そんなバカなこと、とても考えられない」と批判。
・鉢呂吉雄国対委員長が公明党の漆原良夫国対委員長に政治倫理審査会実現に向けた協力を要請
・菅首相、ホテルオークラの日本料理店「山里」で食事
10日
・岡田氏が反小沢の渡部恒三党最高顧問を訪ね、「週末まで待っても小沢氏が政倫審出席を申し出てこなければ、役員会で取り上げます」と小沢氏の出席議決方針を明言。
・北辰会のメンバー13人が党本部で岡田氏に「司法の場に移っている小沢氏の問題を取り上げ、党内を乱すのはよくない」と訴える。
・自公両党、小沢氏の政倫審出席議決に賛成する方針決める。
・菅首相、東京・六本木の日本料理店「さかなや富ちゃん六本木店」で食事。
11日
・岡田氏が山口市内で「小沢氏本人が判断できないのなら、党としての意思を示す必要がある。リスクをとってでも、国民の声に真摯に応える」と述べ、13日の党役員会で小沢氏招致議決の結論を出すことを明言。
・小沢氏は福井県越前市で「同志に迷惑をかけた」と珍しく謝罪。「民主党の政権を何としても成功させたい」「国民の生活を大事にする政治を民主党政権で実現したい」と「民主党」を強調した。
・小沢氏側近の平野貞夫元参院議員は「(小沢氏が)新党をつくったりすることはない」と新党構想を打ち消し。
・小沢氏に近い三井弁雄国土交通副大臣は岡田氏について、「幹事長失格。今は党内融和が大事。近親憎悪みたいなことをやっていては国民が不幸だ」と批判。
・ 菅首相、東京・銀座の日本料理店「吉兆」で食事。
…まあ、菅政権としては、もはや国民と公明党に「いい顔」をするカードは、「小沢たたき」しかありませんから、今回はかなり本気なのでしょうね。それに対し、小沢氏サイドも配下の議員らを使ってあれこれ圧力をかけてきたけれど、堅物・岡田氏は途中はあれこれ迷うものの、いったん決めるともう揺らがないという状況のようですね。
一時は「新党」にまで言及し、「党を割るぞ」という最後の手段で脅しもかけてみた小沢氏ですが、それが効果がなさそうだということで、民主党を出る気はないと修正してきました。民主党を割っても、他の野党は小沢アレルギーが強く、逆に小沢抜きの民主党となら組めるという意見も出る始末ですから、何の展望もありませんしね。
さて、小沢氏が本当に追い込まれた離党した場合、ついて行く議員はどれぐらいでしょうか。これは二つの見方があるようです。一つは、せいぜい20~30人程度、あるいはもっと少なく、大勢には影響がないというもの。もう一つは、今は民主党事態が泥船になっていて、次の選挙はこのままでは落選が確実なので、イチかバチか小沢氏に賭けるという議員が続出し、けっこう膨らむというものです。まあ、私は前者だと思いますが。
とはいえ、追い詰められているのは小沢氏側だけでなく、菅政権の執行部も同じですね。ここで小沢氏をやっつける姿勢を示せば内閣支持率が上がると見ているのでしょうが、まあ、その効果が仮にあったとしても一時的でしょうし。もう元のように6割の支持率に戻ることはないでしょう。今朝のフジテレビ新報道2001では24.4%(不支持69.2%)でしたが、ここまで増えた不支持率は、そうそう取り戻せない。
いずれにしろ、来年は菅首相の退陣は「当然」として、政界再編含みの政局となりそうですね。鬼が笑うようなことを言っても仕方ないのかもしれませんし、そもそも冒頭に記した通り、こうした動きも、それをいちいち追っている自分自身も、ばかばかしい次第ではありますが。
大学時代に愛読した芥川の「侏儒の言葉」で、なぜだか特に強く印象に残っていたのが「瑣事」と題した次の言葉でした。
《人生を幸福にするためには、日常の瑣事を愛さなければならぬ。雲の光、竹のそよぎ、群雀の声、行人の顔、――あらゆる日常の瑣事のうちに無上の甘露を感じなければならぬ。(この先はあえて略)》
杜父魚文庫

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