急速に国際化した人民元、2015年に通貨市場を開放?オフショア市場で人民元の需要が急増した背景と北京の思惑、その誤算。
十数年前、筆者はバンコックに滞在した。繁華街の伊勢丹で驟雨の雨宿り、ふと見ると大きな免税店があるので、冷やかしに入って驚いた。中国人のツアーが店内にあふれかえり、買い物に熱中していた。驚きはその人混みではなかった。人民元が通用したのだ。
97年、返還前の香港では人民元の交換ができる両替商は限られていた。誰も人民元をハード・カレンシーとは認定しておらず、香港ドルが主流で、ドル、ポンド、円の時代。その僅か4年前の1993年に、外貨兌換券を廃止し、つまり二重通貨制をやめて、人民元に一元化、国際的に通用できるカレンシーを目指した。(それまでは外国人は普通の人民元で買い物ができず外国人だけがつかえる「兌換券」をあてがわれた。交換レートは強制レート、だからあの時代の中国の物価は意外と高かった)。
それがいまや人民元が香港ドルより強く、通貨価値が逆転している。香港ドル110に対して、人民元が100.返還直後でも、香港ドル100に対して両替商のレートは人民元88程度だったから隔世の感がある。
ちなみにHKMA(香港通貨当局)が発表した人民元需要は2010年10月が2170億人民元。11月末の速報で2800億人民元。
さて異変は二年前からだ。リーマンショック以後、人民元の対ドルレートは20%ほどの切り上げとなっている。 2010年7月以降も、2・8%の切り上げ、香港での人民元需要は強い。
この間、中国は外貨準備を2兆6500億ドルに増やし、大半を米ドルに替えて国債、それも米国債権に投資してきたことは周知の通り。一方でブラジルなどと人民元スワップを締結し、ロシアとも貿易決済の一部を人民元とルーブルで行い、さらにはIMFへの発言力を肥大化させてSDR債権を500億ドル購入し、2013年をメドにSDRバスケットに「人民元を加え、シェアを3%とする」という目標を公言し始めた。
▼中国人民銀行は人民元の国際化にまだ慎重な理由とは?
市場が変わった。国際的に人民元の需要が顕在化したのだ。ちなみに2010年九月のオフショア市場での人民元需要の速報がBISから発表された(中国は、この数字を公開していない)。
オフショア市場での人民元取引は392億ドル(ドル換算)。内訳は・・・。
香港 107億ドル
中国大陸 97
シンガポール 74
英国 68
米国 30
そのほか 16
(数字はいずれもウォールストリート・ジャーナル、12月24日)
ちなみに同期間のオフショア市場で、ブラジル・レアルは286億ドルだった。南ア・ランドが326億ドル、インド・ルピーが417億ドル。
凄い伸張ぶりだが、専門家の分析に従うと「予想ほど人民元の需要が少ない。相対比較でインドのほうが強いのも、中国人民銀行が急激に人民元の国際化をすると、フリーマーケットに為替相場の主導権が移行し、人民元が投機の対象となりかねないことを怖れているからだ」という。人民元建ての中国債権が取引されているのは、いまのところ香港と英国シティのみ。
杜父魚文庫
6936 人民元が投機の対象となるのを怖れる中国 宮崎正弘

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