6942 杏林大学名誉教授・田久保忠衛氏の憲法改正考察  古森義久

中国問題を見るときに、顕微鏡で見ては分からない。世界の中で中国がどのような位置にあるのか、その中で日本はどう対応せねばならないか、大局観を持って事実を見ていかねばならない。また、個人レベルの問題と国家レベルの問題は別であるということ、外交と軍事はコインの裏表であって軍事力の裏付けのある外交は強い、ということを押さえておく必要がある。
沖縄が日本に返還される前のことだが、米国のニクソン大統領は軍事力を使わずにソ連の首を絞めるため、中国と手を組むことを考えた。そこで関係改善に向けて中国にいくつもサインを送ったが、「沖縄の核抜き返還」もそうで、あれは中国への最大のプレゼントだった。
中国は一貫して軍事力を増強し、人工衛星を撃ち落とすまでになってきた。それはなぜかと事実を見ていくと、中国では経済が発展して生活水準が上がっているものの、貧富の差も広がっており、不満がたまっている。また、汚職も広がっていてどうにもならない。共産党政権を維持するためには今後も国民の生活水準を上げていかねばならず、そのための資源は外国から持ってこなければならない。中国が外へ出ていくのはそうした背景からで、決して中華思想があるからなどという問題ではない。
中国はインド洋で、インドを取り囲むように港湾整備を続けており、「真珠の首飾り」といわれる。中印の間には国境紛争もあり、対中国でこのところ、米印両国が接近している。かつて米国とは敵同士だったベトナムでさえ、数年前から米国に接近している。
尖閣諸島をめぐる問題と北方領土問題に共通して言えることは、日本は力を持っていないから外交にならない、ということだ。日本国憲法の前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して…」とあるが、周りの国を勝手に「平和を愛する国」と規定している。そんなことが通用するだろうか。国は国際情勢の変化に対応して、憲法を何度でも改正する必要がある。
「政治・経済・軍事」をカメラの三脚に例えると、日本は経済はまだ一流、政治は三流だとして、軍事については、「軍隊」がない。現在の自衛隊を規定しているのは警察法体系だ。これでは普通の国の軍隊になれない。国際貢献はできない。三本足の一本がどうにもならなくなっており、これをどうにかせねばならない。
【Q&A】
Q 日本の政治をどう変えていけばよいのか
A 安倍晋三元首相が「戦後レジームからの脱却」を唱えたが、それに唱和する人が民主党の有志も含め一本にまとまり、新しい体制をつくるべきだ。私は前途を悲観してはいない。
Q 日本に核は必要か。私はなくてよいと思うが
A 「核がないほうがよい」というのは正しいと思うが、核と核の谷間で日本が国家として萎縮するのはまずい。少なくとも日本は「核を持たない」という宣言はしてはいけない。いざというときは持つ、という姿勢を見せないと。
Q 一人っ子政策をとる中国は、少子高齢化でどうなっていくのか
A 相当深刻な問題になっていく。5~10年後に経済成長にブレーキがかかるというのは定説になっており、中国は恐ろしいところに近づきつつある。これはロシアも同じだ。
【プロフィル】田久保忠衛=昭和8年2月4日、千葉県生まれ、77歳。早稲田大学卒業後、時事通信社に入社。海外で特派員、支局長などを歴任した後、外信部長や解説委員を経て、59年から杏林大学社会科学部で教鞭(きょうべん)を執り、平成4年から同学部長。現在は同大名誉教授、正論メンバー。第12回正論大賞受賞。日本の外交評論の第一人者。(産経)
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