幻想を棄てて、国際政治の現実に目覚めよ 日本! 2011年は日本と世界にとって、どのような年になるものだろうか?
12月はじめに『ニューヨーク・タイムズ』紙の日曜版に、2011年を予想する十二コマのコミックが載った。そのなかの一コマに、日本が取り上げられている。「日本でまた首相が交替」という見出しがあって、NHKのアナウンサー風の男に、「今月の月替りの首相の名は::」と、メモを読みあげさせている。
北朝鮮も登場する。「金正恩が四歳になる愛息の金正x(エックス)を、元帥に任命した」というものだ。北朝鮮はともかくとして、日本が物笑いの種になっていることが、わかる。
日本は2010年に、幻想を捨てて、国際政治の現実に目覚めることを、強いられた。
2010年には、日本は中国とロシアによって侮られた。中国が尖閣諸島に対して傍若無人に振る舞い、ロシアが日本が中国に対して膝を屈したのを見て、メドベジェフ大統領が北方領土を訪れて、北方領土がロシアの固有の領土だと揚言した。ロシアは日本が中国によって負わされた傷口を、さらにえぐった。
つい、一昨年のことだったが、鳩山首相が胡錦涛主席と会談して、「東シナ海を友愛の海にしよう」と申し入れたばかりだというのに、中国が尖閣諸島をめぐって日本に露骨な恫喝を加えたために、幻想が霧散してしまった。
おりから、中米関係が2010年に入ってから、緊張するようになった。アメリカは中国が旺盛な経済発展にあわせて、急速な軍拡を進め、中国海軍が太平洋に進出して、東南アジア諸国の島々を脅かしたことから、中国を脅威としてはっきりと認識するようになった。
アジアでは、日本から東南アジアまで、中国に経済的に依存しているかたわら、中国の軍事的膨張を恐れるという、矛盾した構図がある。
中国が人民元を操作して、安く据え置いているために、アメリカで失業者を増しているとアメリカ世論が反撥して、中国に対する不満が昂じている。人民元による〃元寇〃だ。
さらに、北朝鮮が韓国軍艦の「天安(チョンアン)」号を沈め、韓国領の延坪(ヨンビョン)島(ド)に砲撃を加えた後に、中国が北朝鮮を外交的に擁護して、庇ったのも、中国に対する不信感を強めた。アメリカをはじめとする諸国が、核開発を強行する北朝鮮に経済制裁を強めているというのに、中国が北朝鮮経済を支えているために、中朝が一体であることが歴然となった。
中国で民主化を求めて政権を批判したかどで、11年の刑に服している劉暁波氏にノーベル平和賞が授与されたのに対して、中国は授賞式に家族や、友人が出席するために出国するのを禁じ、中国が各国に大使が授賞式に参加しないように、公然と圧力をかけるなど、大人気ない振る舞いをしたのも、人権に顧慮しない国として、中国に対する嫌悪感を増した。
このような流れのなかで、日米同盟関係が普天間基地をめぐる不協和音にもかかわらず、強化された。
だが、軍を優先する先軍(ソングン)政治(チョンチ)を中心に据えていることから、軍は南に対してしばしば実績をあげねばならない。先進民主主義諸国の場合、政権への支持が経済の消長にかかっているのと、同じことだ。
だから、北朝鮮が軍事的な挑発をやめることは、ありえない。だが、米韓による限定的報復攻撃を招くのを恐れて、韓国、日本に対して工作員を使った陰湿な爆弾テロなどを、ひき起す可能性が高い。
私は2003年に六ヶ国協議が始まった時に、北朝鮮が核兵器開発を放棄することはありえないから、時間の無駄だと論じた。核なしには、北朝鮮は経済が破綻した、誰も見向きもしない、みすぼらしい小国でしかない。アメリカや、日本が北朝鮮に敬意を払うのは、核があるからだ。
中国が支えているかぎり、北朝鮮の金正日・正恩体制が、近く崩壊することはありえない。北朝鮮の核開発がいっそう進んで、日本を脅かすこととなる。
中国が尖閣諸島に対する野望を、捨てることはない。2011年も、尖閣諸島の周辺における挑発を続けてゆこう。
鄧小平によって中国が開放経済に踏み切って、経済が発展するようになってから、中国では最高指導部から底辺の民衆にいたるまで、誰一人として共産主義を信じていない。そのために共産主義に代わって、中華が天下をとるべきだという大中華主義と、愛国主義を政権を維持する柱としてきた。
反日が今日の中国の愛国主義を支える、精神的な基礎となっている。政権にとって、民衆のさまざまな不満を、内から外へ転じる格好なガス抜きとして、役立っている。
2011年に、中国という龍はいっそう爪をむくこととなろう。海軍力の拡張とともに、中国という巨大な龍が外洋を飛沫をあげて、泳ぎだした。
日本の周辺のアジアに、十年、十五年後にどうなっているのか、予測することができない国が、三つある。
中国と、北朝鮮と、もう一つが台湾だ。日本と韓国は、十年、十五年後にも間違いなく、民主国家として存続していよう。しかし、三つの国の行く末はわからない。全体主義独裁国家が、永遠に続くことはありえない。ソ連は勢威をふるったが、建国してから六十九年しかもたなかった。今年、共産中国は建国六十二年を迎える。
十二月なかばに、親しいアメリカの国務省幹部が来京したので、昼食をともにした。アジア担当者だが、中国の新駐韓大使が李博明大統領に信任を棒呈してから、すぐに統一部長官――南北関係を担当する閣僚――と会見したと、いった。
統一長官が「天安事件はきわめて遺憾なものであり、わが国として許し難いものだ」と、述べた。
すると、中国の新しく着任した大使が突然、顔を硬わばらせて、蒼白になったと、いった。長官がすぐ先に北朝鮮が雷撃して沈めた、「天安」号事件だと説明すると、安心して顔色がもとに戻った。大使は1989年に天安門広場において、広場を埋めて民主化運動が起り、人民解放軍が出動して、市民や、学生を虐殺した天安門事件だと、とっさに思ったのだった。
このエピソードを一つとっても、中国政権の劉暁波氏のノーベル賞授賞に対する、過敏な対応をとっても、現政権が自信を欠いており、その基盤が磐石(ばんじゃく)なものでけつしてないことが、分かる。
中国では右肩上りの経済成長が続いているが、高成長経済が破綻すれば、政治安定を失おう。かつての日本をはじめとして、かつて目覚ましい高度成長を行った国々の例を振り返れば、かならず限界がある。
北朝鮮の金王朝は、いつ倒れることになるのか。台湾が中国によって、呑み込まれるだろうか。台湾の内政からも、目を離せない。
三つの国の将来が見通せないのは、世界のなかで、日本がある東アジアが中東と並んで、もっとも安定が脆い地域となっていることを、示している。
アメリカ経済はいまだに失業率が高いものの、ゆっくりと回復しつつある。オバマ人気は、すっかり褪せてしまった。
だが、アメリカはいまだに活力に溢れた国だ。オバマ政権が三年目に入るアメリカは、イラク、アフガニスタン戦争によって足をすくわれ、ブッシュ前政権当時の勢いを失なっているものの、いまだに世界最強の軍事国家であり、必要があれば行使することを躊躇らわないことに、変わりがない。
2011年には、先進諸国経済が引き続いて低迷するなかで、インド、南アフリカ、ブラジルをはじめとする、つい昨日まで、後進国か、発展途上国と呼ばれた、アジア、アフリカ、南米の諸国が急速な経済発展を続けてゆこう。
この面では、世界の将来は明るい。だが、世界の各所が綻びはじめている。
アメリカはイラクからイラク国軍と警察を訓練するための将兵を残留させ、空軍基地を維持するものの、戦闘部隊を撤収する。オバマ大統領はアフガニスタンから、戦闘部隊の撤収を今年十一月から始めることを、公約している。ホワイトハウスが2010年末に、アフガニスタン戦略報告書を発表したが、いまだにアフガニスタンの戦況が厳しいために、2014年の完全撤収期限まで、ゆっくりと引き揚げることとなった。
だが、真の戦場はパキスタンだ。パキスタンはアフガニスタンと長い国境線を接しており、アフガニスタンのタリバン・ゲリラが、パキスタン側の国境内の山岳地帯に潜伏して、アフガニスタンに出撃している。
アメリカはパキスタン政府軍とともに、パキスタン国境地帯のタリバン・ゲリラを攻撃している。ところが、イスラム国家であるパキスタンには、タリバンの同調者が多く、軍の高級幹部のなかにも、タリバンと同じイスラム原理主義者が少なくない。
パキスタンは以前から、安定を欠いてきた。アメリカは、もし、パキスタンでタリバンと結ぶイスラム原理主義勢力が、政権を転覆することがあった場合に、パキスタンがインドと並ぶ核武装国家であることから、核兵器がイスラム原理主義者の手に落ちてしまうことを、恐れている。
中東では火薬庫まで伸びた導火線に、火花が刻々と走っている。イランが北朝鮮と協力して、核兵器開発を進めており、二、三年以内に核弾頭を保有することになるものと、みられている。イランのラフサンジャニ大統領は、「イスラエルを地図のうえから、抹殺する」と、公然と呼号している。
アメリカ、ヨーロッパ諸国、日本をはじめとする諸国が核開発を放棄させようとして、イランにも、北朝鮮と同様に経済制裁を加えているが、ロシア、中国がかげで援けていることもあって、効果を奏していない。イランは西側と交渉を続けているものの、核開発を放棄することを拒んでいる。中東の〃六ヶ国協議〃版だ。北朝鮮と同じように、解決する決め手を欠いている。
イランはシーア派のイスラム教国である。シーア派とスンニー派は、同じイスラム教だというのに、ともに天を戴くことがない仲だ。
そのために、イランは国内にシーア派の少数派をかかえる、サウジアラビアをはじめとするスンニー派諸国によって、恐れられている。サウジアラビアなどの諸国は、イランの核施設を破壊するために、イスラエルが外科的なミサイル攻撃を加えることを、望んでいる。
もし、イランが向う一、二年のあいだに、核開発を放棄しない場合には、イスラエルが空、あるいは地上、海から攻撃を加えて、イラクの核施設を摘出することがありえよう。そうなれば、イランがペルシャ湾の出口の狭いホルムズ海峡を封鎖して、アラビア半島からの石油の供給が絶たれることになる。
日本は佐藤栄作内閣が「非核三原則」を掲げて以来、核兵器とあたかに無縁になったと考えて、核兵器による脅威から、目をつむってきた。2011年には、北朝鮮、イランの核開発をめぐって、核が身近に感じられるようになろう。
ヨーロッパから、不気味な地鳴りが伝わってくる。ユーロ圏のギリシア経済に続いて、アイルランド経済が破綻した。ポルトガル、スペインも、危いとみられている。スペインは先の三つの国とちがって、人口が四千七百万人の大きな国だから、経済が溶解したら、その影響は深刻だ。イタリア、ベルギーも、そのつぎではないかといわれる。ユーロ圏は、不安がいっぱいだ。
2002年に、ヨーロッパ共同体によって通貨統一が行われて、喝采のなかでユーロが登場した時に、私は統一通貨であるユーロはかならず失敗すると、予想した。ユーロはどの国であれ、一国の経済は通貨の発行権のうえに成り立っているという常識を、無視したものだった。
ギリシアも、アイルランドも通貨を切り下げることによって、経済を建て直すことができたのに、ユーロという枷(かせ)をはめられているために、そうすることができなかった。2011年には、ユーロ圏の十六ヶ国のなかから、脱退しようと試みる国がでてくる可能性が、高い。
そのかたわら、ドイツがギリシア、アイルランド経済を救済するために、巨額の負担を強いられたことから、多くのドイツ国民がユーロに愛想を盡している。ユーロ圏が解体することがあれば、世界経済の構造を大きく変えることになる。
私はユーロが出現した時に、母音で通貨が終わる国は、みんな危ないと説いた。ギリシアはドラクマ、ポルトガルはエスクードでo、スペインはペソでo、イタリアはリラでa、ユーロはoだった。それに対して,米ドルは子音のr、円はn、イギリスのポンドはdで終わっているから、安心してよい。
そういえば、ロシアのルーブルはe、中国の人民元はRenme・1nbiでⅰで終わっている。
2011年は、日本にとって〃現実元年〃となろう。北朝鮮が延坪島を砲撃した直後に、朝日新聞の「天声人語」(11月27日)が北朝鮮という国は「スターリンの後押しで生まれ、毛沢東に、へその緒を切ってもらって::いま世界地図上にある」といって、そんな国は狂言「悪太郎」の悪太郎のように、心を入れ替えることはないと説いている。
「天声人語」を敷術(ふえん)すれば、中国の生い立ちについても、同じことがいえる。
日本国の出自も、アメリカによって独立国としてまったくふさわしくない、日本国憲法を押しつけられた、半身不随の国家であってきた。「天声人語」には、日本の生い立ちにも触れてもらいたかった。日本は〃平和憲法〃の幻覚から、覚めなければならない。
杜父魚文庫
6952 2011の国際情勢を展望する 加瀬英明

コメント
自由とは、自己の意思の自由である。
自己に意思がなくては、自由にも意味がない。
日本人には、意思がない。
意思は、未来時制の内容である。
日本語には時制はなく、未来時制もない。
ボランティアとは、自由意思の人である。
我が国の志願で出てくる人とは、どこが違うか。
「ボランティア活動を強制してはいけない」と言ってその普及を反対する人がいることからしても、我が国においては、意思そのものの把握が不十分でることがわかる。
自主・独立 (independent) とは、英米人が子供を褒めていうときの言葉である。
自分が必要とするものは、自分自身の才覚により手に入れるのが大人の態度である。
自分の欲するものを大きな口をあけながら他人にピーピーとねだるのは、雛鳥の態度である。自分がまだ雛鳥の段階であれば、これは仕方のないことである。
独立に必要な軍備を他国にピーピーとねだる国民も子供じみた態度であることに変わりない。自国がまだ未熟な段階であれば、これは仕方のないことである。
http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/terasima/diary/200812