6970 激動2010 政界回顧録(下) 阿比留瑠比

「仙谷」時代到来 失言、暴言、食言…
国民の期待を追い風に出帆した「鳩山丸」は、鳩山由紀夫前首相の無責任な言動が嵐を招き、わずか8カ月半で沈没した。民主党政権2代目は市民活動家出身の菅直人首相。ところが、その存在感は薄く、首相官邸を支配したのは仙谷由人官房長官だった。永田町は与野党激突の「仙谷(戦国)時代」に突入した。
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「な、なんぼ? もう少し欲しいね…」菅内閣発足前日の6月7日。官房長官に内定した仙谷氏は記者団から「内閣支持率が6割に迫る」と聞き、さらに欲張った。この日の記者会見では、軽薄な言動で自滅した鳩山由紀夫前首相を暗に批判した。
「一つ一つの言動で国民の信頼を損なわないようなマネジメントのあり方を学ばなければならない」
ところが、皮肉にも当の仙谷氏の失言、暴言、食言により、政権は信頼を損ねていった。
就任直後から予兆はあった。弁護士出身の仙谷氏は法律知識をひけらかす「癖」がある。6月16日の記者会見で、菅首相が副総理・国家戦略担当相時代に「沖縄独立論」を述べたとされる件を問われ、得意満面でこう語った。
「検証しようがない伝聞証拠は、刑事訴訟法で言えば証拠能力がない」
同じ日の記者会見で、参院本会議で質問に立った自民党の西田昌司氏を念頭に「罵詈(ばり)雑言を投げつける質問をした方がいた。国会でなければ名誉毀損(きそん)の告訴状を3本も4本も出ざるを得ない」と言い放った。
幼いころ神童と言われ、東大全共闘の闘士から弁護士となり、野党政治家として頭角を現した。もしかしたら仙谷氏は長い人生で面罵された経験がほとんどなかったのではないか。西田氏の政権批判はよほど許せなかったとみえ、8月4日の参院予算委員会で再び西田氏と対決すると声色を変えた。
「耳をほじくって刮目(かつもく)してお聞きいただきたい!」
さらに「名誉毀損」発言をただされると嘘をついてメディアに責任転嫁した。
「私の記者会見などの正式な発言ではなく、そういう非公式な雑談が書かれたとすればご迷惑をかけた」。明らかな虚偽答弁だが、なお撤回していない。
政府は12月10日の閣議で閣僚が国会で虚偽答弁した場合の政治的・道義的責任について「答弁の内容いかんによる」とする答弁書を決定した。閣僚が虚偽答弁をしようと必ずしも責任は問われないというわけだ。
こんなご都合主義の解釈を正式な政府見解で定めてよいはずはない。菅内閣が国民の信を失うのは当然といえよう。
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首相の不用意な消費税率引き上げ発言もあり、民主党は7月の参院選で大敗を喫した。内閣支持率も急落したが、9月の民主党代表選で小沢一郎元代表を破り、首相が「脱小沢」路線を明確にすると支持率はV字回復した。
ところが、とんでもない落とし穴が待ち受けていた。沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件である。
海上保安庁は、巡視船に体当たりした中国人船長を公務執行妨害容疑で逮捕した。法に従った妥当な対応だったが、中国側の異様な反発を受け、政府中枢は狼狽し、那覇地検は船長を勾留期限前に釈放した。
仙谷氏が一連の対応を主導したのは間違いない。ところが船長釈放を「那覇地検独自の判断だ。これを諒とする」と検察当局に責任転嫁したあげく法匪的な詭弁を弄し続けた。
「弱腰だというが、『柳腰』というしたたかで強い腰の入れ方もある」
10月12日の衆院予算委で仙谷氏は「弱腰外交」との批判をかわし、悦に入った。柳腰は女性のか細い腰つきを意味する。明らかな誤用だが、それさえ撤回しようとしなかった。
10月18日の参院決算委では自民党の丸山和也氏に「訴追されたらAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が吹っ飛んでしまう」「(中国への)属国化は今に始まったことではない」と電話で語ったと暴露された。
仙谷氏は健忘症を装い、その場を切り抜けたが、翌19日の記者会見で「いいかげんな人のいいかげんな発言にはまったく関与するつもりはない」と丸山氏を罵倒。この問題はついに訴訟に発展した。
もう一つの焦点は衝突時のビデオ映像だった。漁船の非を裏付ける決定的な証拠であり、海上保安庁は当初は公開方針だったが、官邸サイドがブレーキをかけた。
仙谷氏は「公判上支障がある」と屁(へ)理屈をこねたが、船長を釈放し、帰国させた時点で公判を開くことは不可能だ。仙谷氏も「事実上そういうことになる」(衆院予算委)と認めながらなお公開を渋り続けた。
理由は1つ。中国を刺激するのを恐れたからだ。
公開をめぐり国会は紛糾した。民主党内からも「地検の一官吏に押し付けたのは非常に良くない。事実上菅内閣が命じたものだ」(小沢氏)と批判が噴き出した。
揚げ句、衝突映像がインターネット上に流出し、その行為が国民の知る権利に貢献したとの評価が出ると逆上してこう述べた。
「逮捕された人が英雄になる。そんな風潮があっては絶対にいけない」(11月9日の衆院予算委)
だが、流出させた一色正春元海上保安官は結局、逮捕されはしなかった。逆に政府が逮捕した中国人船長は帰国後英雄として扱われた。仙谷氏の怒りの矛先は奇妙な方向を向いている。
11月18日の参院予算委では自衛隊を「暴力装置」呼ばわりし謝罪に追い込まれた。12月13日の記者会見では、米軍基地負担を沖縄に「甘受していただく」と「上から目線」でモノを言い、撤回した。
振り返ってみれば、参院が仙谷氏の問責決議を可決したのは当然だろう。
一方、主役のはずの首相は11月のAPEC(横浜)で譲歩に譲歩を重ねた末に中国の胡錦濤国家主席との20分間の“会談”を実現させたが、目をしばたたかせながらメモを読み上げただけ。
年末は政権浮揚に向け、小沢氏の国会招致に躍起になったが、その姑息(こそく)さと指導力のなさはすでに国民に見透かされている。(産経)
杜父魚文庫

コメント

  1. rokubeisan より:

    首相は早期に訪中して関係修復をはかると報じられていますが、外交で支持率が回復するはずもなく長期の戦略として尖閣・沖縄を簒奪しようとする中国と本質的な関係修復などできるわけが無く、すべきだとも思えません。謝罪利権に連なる官房長官も早くやめてほしいと願っています。どうすれば総選挙になるのでしょうか。来年こそは本格的に論ずるに値する政権が誕生してほしいです。

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