昨年の三月にフランス主要経済紙「ラ・トリビューン」(La Tribune) が中国のバブル経済は上海万博の閉幕とともに崩壊するだろうと占った。「上海万爆」と題するこの記事は、上海万博が閉幕するシーンを各国の展示館が取り壊され、各国の観光客が去り、撮影機のライトを消し、上海万博が閉幕する瞬間は、中国のバブル経済の崩壊が「爆発」する時期となるとした。
これが現実のものになりつつある。中国にとって北京オリンピックと上海万博こそが「経済成長」の牽引車になる筈であった。それが「景気後退」のきっかけになるとは想像もしていない。「8%成長率を守ろう」(いわゆる“保八政策”)のスローガンが中国の国家目標であり、中国政府は大規模な景気刺激策に狂奔した。
しかし現実はどうか。
上海や北京には高層ビルが林立しているが、空き部屋が目立つ。沿岸大都市ではすでに不動産価格が下落している。日本が経験したバブル崩壊と同じ兆候がみえている。
日本のバブル景気は1980年代後半から1990年代初頭まで起こっている。戦後の日本経済は、景気・不景気の循環を繰り返していたが、バブル景気はこれまで経験したことがない高い山を描いた。中曽根内閣の当時のことになるが、米国との貿易摩擦解消の為、内需拡大を国際公約し、これまでの緊縮財政から一転、公共事業の拡大政策をとっている。
また中曽根税制改革により法人税が42%から30%へ軽減、所得税最高税率が70%から40%に引下げられた。税収は減ったが、富裕層の所得が増え、その多くは土地や株式に向かったため、株式相場や土地価格が急騰している。
これが続けば日本経済は世界に冠たる経済王国となったであろう。「二一世紀は日本の世紀」という経済論調が欧米でもいわれた。この頃、日本企業はロックフェラーセンターやハワイのホテルなど、海外の不動産を買いあさった。日本から流出した巨額の資金は十兆円以上の規模だといわれる。中国の富裕層が海外の不動産を買いあさっている状況と酷似している。
資産運用で儲かるということで、最初は自己資金でやっていたものを、投資資金が大きければ大きいほど儲かると、土地や株を担保に借金をして土地や株を買い、その新たに買った土地や株を担保に土地や株を買うことが繰り返され、景気が過熱した。日本企業の多くが財テクに走った。
実態以上に土地や株式が急騰すれば、その反動が来る。1990年代初頭にはバブル景気とバブル崩壊が重なって現れている。中国経済も同じ兆候が出ている。宮崎正弘氏によれば、中国の不動産投資は『投機』となり、ついに2000万戸もの『誰も住んでいない住居』を建設しているという。地方都市にも誰も住んでいないゴーストタウンが出ている。米国のサブプライム破綻で『誰も住んでいない住宅』は1000万戸だったから、中国はその二倍に達している。
投機の不動産投資が頭打ちとなり、中国マネーは金買いと闇での外貨交換、さらには日本の山林まで買う様は日本のバブル・マネーが海外の不動産を買いあさった現象と同じである。このような『人為的成長』はいずれは破綻する。中国はまさに景気過熱とバブル崩壊が重なって現れる兆候をみせている。
「過熱化した経済を沈静化するため、中国政府は政策金利の引き上げに踏み出したいが、しかし金利の大幅な引き上げで株式市場が急落し、人民元切り上げの圧力も高まる可能性があるため、直ちに金融引き締め政策に踏み切れない。中国のバブル経済が崩壊する以外、他の解決方法はない」という識者の見方さえうまれている。2011年は、その意味で中国経済にとっては重要な年になるに違いない。
杜父魚文庫
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