サウジ国王は「ボーイング大量発注条件はエアフォース・ワンとおなじ仕様」。ジュリアン・アサンジの予告通り、金融ならびに欧米大企業のスキャンダルが暴露され始めた。「金融関係大手企業の二つや三つ、つぶれるかも知れない」と予告したためウォール街は戦々恐々となった。
ウィキリークスの「初荷」はボーイングの売り込みに絞り込まれて、中東諸国への代理人、政府高官とやりとりした外交公電が暴露された。
「サウジアラビア国王は王家のプライベート・ジェット機十三機ならびに民間航空の新型との交換機をボーイングとする条件に、米大統領専用機エアフォース・ワンの高度な通信設備、ハイテク施設ならびに防衛システムとおなじ仕様にしてほしい」と要請した。「発注された機は顕著に改善されていた」。
イスラエル・フェルナンデス米商務省高官は、この商談時点(06年末)、ジェッダへブッシュ大統領じきじきの親書をたずさえて最終のつめに赴いた。アブドラ国王は「その条件を呑めば神が(ボーイングに)お決めになるだろう」と言ったと公電にある。
「スペース・シャトルの乗組員にトルコの宇宙飛行士を加えろ」というのはトルコ航空が20機をボーイングに選定する条件だった」
「バングラデシュはJFK空港への着陸権を再認可するよう求めた」
そして米国外交官はあたかもボーイングのセールスマンのように赴任地でふるまい、条件、価格交渉をつめた。なぜならボーイング一社で全米ハイテク産業の雇用を数万人ほど増やせるからであり、政府の景気浮揚政策と密接に絡むからだ。
▼エアバスとの商戦は舞台裏でかくも熾烈な政治があった
ウィキリークスが明かしたのは、従来常識とされてきたボーイングの売り込み作戦に纏わる醜聞が、より具体的にしかも欧州連合の主力機、エアバスとの競合と並行して公電が詳細をつたえているポイントにある。
あまつさえ販売代理人へのコミッション、賄賂の額面などがボーイング社の直接関与を排除するかたちで記載されている。
とくにトルコとタンザニアへの売り込みには当該国家に児玉誉士夫的なフィクサーが存在し、明らかに賄賂とわかる金額がスイス銀行の匿名口座に送金されていた。
バーレーンは「ガルフ航空」がエアバス導入を決定し、最後の欧州政府の債務保証などのエンドースを待っている状態だった。
突如、07年、ブッシュ大統領のバーレーン訪問時にボーイングに決定という劇的セレモニーをおこなうために、米国外交筋は反攻にでた。
アダムエレリ駐バーレーン米大使は精力的ロビィ工作を開始し、当該航空取締役会のみならず国王陛下に謁見した。二週間後、ブッシュ大統領がバーレーンを訪問し、逆転契約が成立した。サルコジ仏大統領は、直後にバーレーン訪問を打ち上げていたが間に合わず、訪問そのものをキャンセルした。
ヨルダンのアブドラ二世(国王)は、「エアバスのほうが条件が良いけれどもボーイングを選定したのは政治的理由である」と駐在米大使に発言した(04年)。
杜父魚文庫
6981 大企業の機密暴露ボーイングの各国政府売り込み醜聞 宮崎正弘

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