これじゃ胡錦濤は訪米しない方が良かった。実りなき米中首脳会談。米中はひややかに対決、ステークホルダーは幻影だったと米議会は総括。
米中首脳会談をめぐる各国の新聞記事のなかでも、人民日報は「パンダ貸しだし、五年延長」がトップにきた。ほかに書くことがないのかも。
英紙フィナンシャルタイムズは「胡錦濤、訪米で人民元を防衛」というのが一面トップ。米ウォールストリートジャーナルは「胡、対米協調を力説」といささか異なる。
2011年1月19日、胡錦濤は五年ぶりのワシントン訪問、こんどは公式訪問で晩餐会も二回という「熱烈歓迎」。
しかし表向きの重要会談とは言っても、中味となると米側はよそよそしく、内心は中国のことを「こんちくしょう」とでも思っているかのごとし。上下両院院内総務らは晩餐会に欠席という異様な対応ぶりだった。
ワシントン市内では胡訪米反対、チベットに自由を、人権抑圧独裁政治非難のデモ隊が犇めいた。米マスコミも胡訪米を冷遇、在米中国人の“歓迎デモ”は報じられなかった。
米国財界との会合に出席した胡主席は、「金融危機から世界経済は回復した。しかし不安定要素に直面しているのは事実」と演説した。
「世界経済がちゃんと回復するために米中の協同は欠かせない」とも。この会では司会役が親中派のキッシンジャー元国務長官が努めた。財界はそれでも「人民元は不当に為替操作されており、中国の中産階級を目的として米国企業の参入が難しい」と不満をのべた。しかし歓迎ムードはここまで。
とりわけ議会そのものが反中国一色だったことを特筆しておくべきだろう。G2などと過大評価の親中ムードは消し飛んでおり、「ステークホルダー(共通利益者が米中であると、ゼーリック世銀総裁が国務副長官時代に言い出した)は、国連制裁を無視した北朝鮮の武器輸出をゆるすのか。それも北京経由で北のミサイル部品がイランへ流れた」
「ステークホルダーは、国際法に違反しても、南シナ海を「核心的利益」と言う中国の表現を踏襲するのか」。
▼議会指導者は晩餐会を欠席し『抗議』を示した
かくて超党派ならなる84人の議員がオバマ大統領へ「中国の不公正な貿易で、我々の忍耐は限界だ」と訴える手紙を提出した。
米議会は人権、軍事力の脅威、人民元、知的財産権侵害、WTO違反など、一斉に中国批判の合奏がおこり、記者会見でも人権抑圧、劉暁波ノーベル賞受賞への妨害批判に渦巻き、しばし立ち往生、胡錦濤は不快感を露わにした。
記者会見をいやがった胡は、同時通訳を避け、意図的に逐次通訳を選択した理由も、考える時間をかせぐため、人権問題での批判も「それぞれの国はそれぞれの事情がある」などと躱したが、記者団の印象としては「この男も(オバマ同様に)レイム・ダック入りしている」という総括だった。
だが詭弁と詐術に長けた指導者だけに、すぐに反撃にうつる。「中国の防衛力強化は平和目的であり、軍拡レースに中国は加わる興味もなく、いかなる国へも覇権を求めることもない。むしろ台湾へ武器援助するのは米国ではないか。チベット、台湾は中国の主権の問題であり『コア・インタレスト』(中核的利益)だ」と吠える。
さて議会人との対話はいかなる結果であったか。
■うるさい米国議会は有力議員十一人が胡錦濤を待ちかまえていた。ジョン・ケリー、リチャード・ルーガー、ジョン・マケインなど錚々たる議会指導者。殆どが大統領候補にもなった大物揃い。
ケリーとマケインは大統領候補だった。ルーガーはレーガン時代からの議会外交委員会のボスである。
しかし議会人との対話も一時間少々で、逐次通訳のため、実際は30分強だったのだ。だから質問できたのはペロシ女史とジョン・バーナー下院院内総務のふたりだけだった。
「強制的妊娠中絶は一人っ子政策とはいえ、人権の基本を侵す」「ダライラマとの対話を再開しなさい」とくにペロシ下院民主党院内総務(前議長)は有名な人権活動家でもあり、ストックホルムのノーベル平和賞授賞式には米議会を代表して出席してきたほど。彼女は「劉暁波の早期釈放」を要求した。
▼米国はやっと今頃になって中国の本質が分かった
米国もやっと、中国への幻想から目覚めた。親中派は、いまのワシントンでは孤立しており、キッシンジャーやブレ人スキーといった中国との妥協派は嘲笑の対象でさえある。
「質問をはぐらかす胡は、まったくとらえどころがない」という感想はがチャールズ・ボウスタニー議員(ウォールストリートジャーナル、1月21日付け)。
「対話などは時間も無駄、残るは対中制裁アルのみ」と獅子吼するチャールズ・シューマー上院議員ともなると、「多弁であっても無内容な、胡錦濤の話を聞くなんて」と参加しなかった。
シューマー上院議員は人民元の30%切り上げか、さもなくば20%以上の報復関税を対中輸入品に課せといきまく議会の対中最タカ派である。
この米中冷却という外交上のタイミングをどう日本は活かせるか? この「敵失」は日本外交にとってチャンスであり、活用しない手はないだろう。
しかし馬鹿と間抜けの永田町には、その発想さえ浮かばないようではある。
杜父魚文庫
7084 上下両院院内総務らは胡錦濤の晩餐会に欠席 宮崎正弘

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