7181 強硬なロシアの態度に打つ手はなし 古沢襄

三月危機がいわれている菅政権の対ロ外交は行き詰まりをみせている。昨年11月のメドベージェフ大統領が国後島を訪れて以降、たたみ掛ける様にロシア政府要人の北方領土訪問が続き実効支配を強化している。
10日から前原外相が訪ロしてモスクワで日ロ外相会談を行うが、ロシアは日本の反対を無視して、北方四島を含む千島列島の共同開発計画を推進、さらには北方領土を訪問したセルジュコフ国防相は択捉、国後両島の駐留部隊の装備を近代化する意向を表明した。
強硬なロシアの態度に打つ手はないのが現状といえる。
私は昨年11月16日に「ロシアは歯舞群島と色丹島の返還も凍結か」の予測記事を書いた。ロシアの有力紙コメルサントで「菅・メドベージェフ首脳会談後のロシア政府が今後、北方領土の歯舞、色丹両島の引き渡し交渉にも応じない方針だ」と報じた内容を関係者に確認した結果、今日の事態を予測することが出来た。
<<北方四島の返還交渉は鳩山一郎内閣の当時、河野一郎農相によって突破口が開かれた。戦後の政治家の中で一度は総理大臣になって欲しかったと思うのは緒方竹虎氏と河野一郎氏。いずれも朝日新聞出身のジャーナリストだが、この二人が総理大臣になっていたら、戦後の保守政治の流れは大きく変わっていたであろう。
河野氏は昭和29年(1954)の第1次鳩山内閣で農相に就任し、第2次、第3次鳩山内閣で農相を留任して日ソ漁業交渉、日ソ平和条約交渉でフルシチョフ共産党第一書記を向うに渡り合い、日ソ共同宣言を実現した陰の実力者であった。
日ソ共同宣言の合意によって、日本はソ連との戦争状態を終結し、外交関係を回復、ソ連は日本の国連加盟を支持することになった。さらに日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡すとしている。
1956年12月18日の国連総会でソ連と東欧諸国は日本の国連加盟に賛成し、全会一致による日本の加盟が実現している。だが、北方領土の全面返還を求める日本と、平和条約締結後の2島返還で決着させようとするソ連の妥協点が見出せないまま日ソ平和条約の締結が見送られたまま今日に至った。
河野氏は北方四島の返還は、日ソ共同宣言に基づき歯舞群島と色丹島の返還を先行させ、国後、択捉両島の返還は継続交渉とし、さらには国後、択捉両島周辺の海域における日本漁民の安全操業に保証を求める妥協案を模索したといわれる。この路線は橋本元首相、森元首相に形を変えて引き継がれている。
だが、ロシアは15日付の有力紙コメルサントで菅・メドベージェフ首脳会談後のロシア政府が今後、北方領土の歯舞、色丹両島の引き渡し交渉にも応じない方針だと報じた。
これが事実だとすれば、ロシアは日ソ共同宣言で約束した平和条約締結後の二島返還をも否定したことになる。少なくともロシアは領土交渉を事実上凍結する立場に転じた可能性がある。>>
これについて産経新聞の佐藤貴生モスクワ特派員が最新のモスクワ情報を伝えてきている。大統領選挙を控えたメドベージェフ大統領が国内事情から強硬姿勢をとっているという見方があるが、ロシア軍部を含めた一連の動きは、もっと根が深い。
外交交渉は国家間の力関係の中で決まるから、脆弱で内向け民主党政権下では、前原外相が訪ロしても一歩も進まないであろう。政権基盤を強化して北方領土交渉を一から再構築する必要がある。
<【モスクワ=佐藤貴生】ロシアのセルジュコフ国防相は4日、北方領土の択捉島と国後島を訪れたほか、色丹島を上空から視察した。イタル・タス通信が伝えた。11日にモスクワで予定される日露外相会談を前に、領土返還交渉を事実上拒否する態度を鮮明にした形だ。国防相は択捉、国後両島の駐留部隊の装備を近代化する意向を表明、軍事面でも日露間の確執が生じる可能性が出てきた。
国防相は、択捉島と国後島の第18機関銃・砲兵師団の関連施設を相次いで訪問、司令官の報告を聞いたり兵舎や食堂などを視察したりしたほか、軍人の家族とも面会した。
視察後、国防相は今年から2020年まで実施される「国家軍備計画」の枠組みで、第18師団の兵器や装備を一新して軍備強化する方針を打ち出した。北方領土に駐留する兵員はソ連崩壊後、3500人まで縮小されたとの情報があるが、個々の戦闘能力増強に主眼を移した可能性もある。
メドベージェフ大統領は昨年、国内総生産(GDP)に占める軍事費の割合を20年まで2・8%前後で維持すると表明、軍事大国の復活を目指す考えを示していた。今年の軍事費は約1兆5200億ルーブル(約4兆2千億円)で、昨年比約2割増の伸びを見込んでいる。
北方領土周辺海域の動きで注目されるのが、仏露が昨年末、4隻を共同建造することで合意した仏製ミストラル級強襲揚陸艦の存在だ。13年後半にも1隻目がロシア側に引き渡される見通しで、露海軍幹部は今年1月、同艦を太平洋艦隊(司令部・ウラジオストク)に配備する方針を示した。
最大でヘリコプター16機、兵員900人の輸送能力がある同艦について、露海軍幹部は「海中や上空からの攻撃にも対応できるようにする必要がある」と述べ、軍事作戦で使用する可能性を示唆した。
強襲揚陸艦の売却をめぐり、ある日本外交筋は「この話が浮上して以来、フランス側に懸念を伝えてきたが、主権国家同士の合意であり、いかんともしがたい面がある」と語っていた。
昨年11月のメドベージェフ大統領の訪問以来、ロシアでは閣僚の北方領土視察が相次いでいる。大統領は、北方四島をさす南クリール諸島は「すべてロシア領」と主張、統一経済圏や自由貿易圏などの枠組みで日本側の北方領土への投資・開発を呼びかけ、領土問題の構図の根本的な転換を日本側に求めている。>
<前原誠司外相が、森喜朗元首相と北方領土問題を巡って3日に会談したことが分かった。4日、政府関係者が明らかにした。森氏は前原氏に対し、1956年の日ソ共同宣言に基づき色丹島と歯舞群島については返還を、国後島と択捉島については帰属を並行して協議するよう提案した。会談は10日からロシアを訪問する前原氏の申し入れで行われた。
森氏は首相当時の01年3月、当時のプーチン大統領(現首相)とシベリア・イルクーツクで会談。平和条約締結後の歯舞群島、色丹島引き渡しを目指した日ソ共同宣言と、北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結することを明記した東京宣言(93年)の有効性を確認した。森氏はこの時の会談で、プーチン氏に対し「歯舞・色丹の引き渡し問題と国後・択捉の帰属問題を車の両輪のように協議していきたい」と提案した。
前原氏は森、プーチン両氏のパイプに着目し、メドべージェフ大統領の国後島訪問など強硬姿勢を示すロシアとの交渉について、森氏に伝授を求めたようだ。(毎日)>
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました