エジプト情勢は予測した方向にある。デモの渦に巻き込まれていると明日にもイスラム聖職者の革命が起こりそうな気になるものだが、アラブ世界でデモによって政権が打倒された例はまだない。政権が倒れたのは軍が権力者の追放に荷担したジンクスがまだ破られていない。世俗主義国家のチュニジアで起こった「ジャスミン革命」もチュニジア軍の動向が決め手となった。
それでも九月にムバラク大統領が退陣するのでエジプトの民主化は僅かながらでも進むであろう。ポスト・ムバラクで「次期大統領を狙う注目候補 最有力はスレイマン副大統領(2011.2.4、産経)」の下馬評が生まれている。
スレイマン氏は軍出身で諜報機関の総合情報庁長官を長く務めたほか、対米・イスラエル外交でも要の役割を果たしてきた。国内外の情勢への視野も広く、米国の信頼も厚いという。私はロシアのプーチン大統領(現首相)が登場した時に、KGB(ソ連国家保安委員会)出身の”暗さ”を感じたが、世俗派のスレイマン氏にも同じイメージを持つのは諜報機関が長かったせいなのだろう。
米国は当初、国際原子力機関(IAEA)前事務局長のムハンマド・エルバラダイ氏を次期大統領に想定したフシがある。だが国際的には著名なエルバラダイ氏はエジプト国内ではあまり知られていない。加えてエジプト軍の支持を得ていない弱点がある。
さらにはエルバラダイ氏が非合法の穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」と一時、共闘姿勢を示したことなどから米国の警戒感が強まっているとされる。そのムスリム同胞団の有力聖職者がイスラエルとの平和条約の破棄、反米姿勢を示したことも、エルバラダイ氏にとってマイナスとなった。
スレイマン氏は野党との政策協議を始めたが、エルバラダイ氏を除外している。ムバラク後継でスレイマン氏が一歩先んじているかにみえるが、断定するのは早過ぎる。エジプトはこれから政治の季節を迎える。
<【カイロ=黒沢潤、大内清】エジプトのムバラク大統領が今秋までに予定される大統領選への不出馬を表明したことを受け、次期大統領が誰になるのか注目されている。
大統領選に向けては今後70日間かけて、独立系候補の出馬を事実上、不可能にしている現憲法の改正手続きを上下両院で実施。選挙実施は8、9月の見通し。
次期大統領の最有力候補は、現副大統領のオマル・スレイマン氏(74)だ。軍出身で諜報機関の総合情報庁長官を長く務めたほか、対米・イスラエル外交でも要の役割を果たしてきた。国内外の情勢への視野も広く、米国の信頼も厚い。
スレイマン氏に対抗しうる人物は存在するのか。
「もし誰かが私に役割を与えるなら、私はできることをする」。元エジプト外相で、アラブ連盟事務局長のアムル・ムーサ氏(74)は2日、中東の衛星テレビ局アルアラビーヤとの会見で、大統領選への野心を隠さなかった。
外相時代に見せたイスラエルへの毅然とした姿勢や、当意即妙の受け答えで国民からの受けも良く、「オレはムーサが大好き。イスラエルなんか大嫌いだ」との歌が流行したほど。米国とアラブ諸国との橋渡し役を務められるとの期待もあり、2005年の大統領選では“待望論”が出た。
同様に外交畑を歩んできた国際原子力機関(IAEA)前事務局長のムハンマド・エルバラダイ氏(68)も意欲満々だ。事務局長時代の05年にノーベル平和賞を受賞し、国際的知名度は抜群。米国がムバラク氏と距離を取り始める一方、エルバラダイ氏と接近しつつあるとの見方もある。
ただ、非合法の穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団と一時、共闘姿勢を示したことなどから米国の警戒感が強まっているとされ、迷走気味でもある。
前回選で民主化運動グループの後押しを受け、「旋風」を起こしたガッド党党首、アイマン・ヌール氏(46)の名前も取り沙汰される。選挙後に投獄された経験もあるヌール氏は民主化運動のシンボルの一人。若者層の期待は高い。
さらに、ダークホースとして名前が挙がるのが、1999年にエジプトで3人目のノーベル賞(化学賞)を受賞したアハマド・ズウェイル氏(64)。カリフォルニア工科大で教壇に立った経験を持ち、エジプトの教育改革を訴えるなど、政治・社会問題で積極的に発言している。1日には居住先の米国から急きょ帰国すると発表し、注目された。
このほか、政局全体のカギを握る人物として、軍参謀総長のサミー・アーナーン氏も注目される。米国防総省とのつながりが深く、フランスやロシアへの留学経験もあり、国際感覚に優れていると指摘される。(産経)
杜父魚文庫
7200 スレイマン氏が一歩先んじてはいるが・・ 古沢襄

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