7208 朝鮮半島での戦争はどう起きるか 古森義久

〔ワシントン=古森義久〕米国の大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」は7日、朝鮮半島の軍事バランス報告を発表し、北朝鮮と韓国との軍事衝突としては北による通常兵器だけの限定攻撃の見通しが最も強いとの見解を明らかにした。北朝鮮と韓国との通常戦力は北朝鮮が圧倒的に多い量を保有しているという。
この朝鮮半島軍事バランス報告は同研究所のアンソニー・コーズマン戦略研究部長らを中心に作成され、約210㌻の長文にわたる。
同報告は朝鮮半島の北朝鮮と韓国との軍事力比較を主体としながらも朝鮮有事では米軍や中国軍、日本の自衛隊などの役割も重視せねばならないとして関係各国の動員できる軍事能力をも示している。
同報告は朝鮮半島の軍事力自体も通常戦力だけでなく核兵器や化学兵器、非対称性(ゲリラ・テロなど)戦力をも列記している。
だが同報告は当面、最大の関心事は北朝鮮と韓国との通常戦力の比較だとして、2010年の時点での兵員では北が117万5千、韓国が65万7千人、近代型戦車では北が3千500、韓国が2千670台、対空砲火(ミサイルや大砲)では北が2万1千、韓国が1千468基、航空機は北が1千52、韓国が701機、戦闘艦艇では北が349、韓国が62隻―などという数字をあげた。
この数字は少なくとも量的には通常戦力では北朝鮮が韓国を大幅に上回っていることを示しているが、実際の有事では兵器類の「質」に加え、米軍の関与の有無が南北バランスを大きく変えうるとしている。
同報告は朝鮮半島での実際の軍事衝突や戦争のシナリオまでを具体的に提示したが、最も現実的な見通しとしては「北朝鮮が通常戦力だけで限定された目的のために韓国側への限定された戦争あるいは軍事攻撃を断行する」可能性だとしている。
この可能性としては北朝鮮軍による
①韓国側の特定の島あるいは非武装地帯の一部の占拠
②限定地上攻撃での韓国側への威嚇
③南北境界線を越えての韓国側の首都ソウルへの大規模な砲撃
④韓国側のその他の戦略要衝への砲撃
⑤実戦部隊のさらなる前方配備での韓国側への威圧
⑥韓国側の首都あるいは領海でのゲリラ攻撃の増加・・・などのシナリオがあげられた。
同報告はさらに北朝鮮が韓国に対し実際の軍事攻撃をかける際の原因として①首脳部交代の危機の深刻化②北朝鮮内部での一般国民への弾圧の強化・・・をも指摘した。
同報告は北朝鮮がこのように通常戦力だけでの限定攻撃を考えるのは、朝鮮半島軍事情勢には米国や中国が密接にからみ、それら大国を巻き込んでの全面戦争となるエスカレーションを起こさない抑止要因が機能しているとの認識のためだとしている。
その一方、同報告は限定された軍事衝突でも北朝鮮の日ごろの韓国や米国への敵対的姿勢のために米韓両軍相手の全面戦争へと拡大する危険も高いとの懸念を表明した。
(産経)
杜父魚文庫

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