長い間の習慣で、政治記事は大きいのより小さいほうが気になる。数行の記事からさまざまに想像が広がり、パズルを解くような楽しみにつながることもあるからだ。
一月二十九日付『毎日新聞』朝刊の政治面に次のベタ記事(見出しが一段)が載った。注意していないと読み落とす。
〈民主党の鳩山由紀夫前首相と自民党の森喜朗元首相が28日夜、東京都内の日本料理屋で会談した。呼び掛け人の国民新党の亀井静香代表が同席。亀井氏が、
「首相経験者として責任ある立場だ」と述べ、今後の国の行方を巡って意見交換し、「憂うべき状況だ」との認識で一致したという〉
亀井さんは翌日、どこかで講演し、三者会談の席で救国内閣を提案したことを明らかにした、というやはりベタ記事をチラリと見たが、あとで捜しても記事が見当たらなかった。
この豆ニュース、三人が気まぐれに一杯飲み旧交を温めただけのこと、とみれないこともない。だが、私は、「やはり亀井が動き出した」とみた。そろそろ亀井さんが腰を上げるころじゃないか、と思っていたら、そのとおりになった。三者会談自体に重大な意味あいや仕掛けがあるわけではないが、政界動乱のシグナルとみていいだろう。
亀井さんは〈政界再編男〉である。一九九四年の自民・社会・さきがけ三党連立、九九年の自民・自由・公明三党連立など連立組み替えの時は、決まって亀井さんが裏で画策し、お膳立てしていた。
余人をもって代えがたいところがある。だれともざっくばらんに話し込める人柄と浪花節的な話術、勘のよさ、熱血漢、さらに、乱を好む仕掛け人の職人業もこの際は貴重だ。
さて、週末の金曜日という三者会談のタイミングである。前日の二十七日は〈日本国債一段格下げ〉ショックが政界を駆けめぐり、米格付け会社は、
「民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けている」と批判したのだ。ところが、この直後、菅直人首相は記者団に、「そういうことには疎いので、改めてにしてほしい」
と信じがたい失言をしてしまった。民主党よ、大丈夫か、とだれもが天を仰いだ。
さらに、翌週には民主党の小沢一郎元代表の強制起訴が予定されていた(三十一日、東京地裁に在宅起訴)。民主党とその政権は日増しに崖っぷちに追い詰められている。菅vs.小沢のうんざりする暗闘劇も政党イメージを甚だしく落とし、救いがたいところまできてしまった。
◇新政治勢力結集の思い 救国内閣の言葉に託す
亀井さんは小沢さんと親交が深い。二年前の春、小沢さんが民主党代表のころだが、亀井さんは、
「小沢氏は人相が悪い。性格だって褒められたものじゃない。だが、そこがいいのだ。意見の違いを乗り越えて救国内閣を作れるのは、小沢氏のような清濁併せのめる強権政治家でなければだめです」
と妙な持ち上げ方をしていた。そのころは、まだ小沢疑惑の行方は定まっていない。しかし、早晩裁判が始まり、いつ黒白が確定するかわからないことになったのだから、亀井さんの小沢評価も当然変わらざるをえない。
亀井さんは別のシナリオを書き始めたのだろう。菅政権は春から初夏にかけ立ち往生、という見方が大勢になっている。自民党など野党は衆院解散に追い込むと意気込んでいるが、菅首相が負けると決まっているのに解散権を行使するはずもない。残された活路は再編、とみる議員が次第に増えている。
そこで亀井さんが、連立与党である国民新党の党首という微妙な立場を逆に活用して、蠢動を始めたのだ。手始めに鳩山さん、森さんに救国内閣を呼びかけたのはなぜか。〈救国〉はつまり政界再編の大義名分である。
さて、この二人、まず鳩山さんは民主党で唯一の首相経験者だ。もう一人、羽田孜さんがいるが、民主党政権下の首相ではなく、すでに引退表明している。亀井さんは鳩山首相のもとで金融・郵政担当相を務めた仲だ。鳩山さん、辞任後は奇矯な言動から評判を落としているが、三者会談のあと、名古屋市の街頭演説で、
「こんな党をつくったつもりじゃなかった。もっと友愛の心を持った、友達同士を大切にする民主党にしていかなければならない。いまは時計の針が逆行しようとしている」
などと菅体制への反発をむきだしにした。いまや鳩・菅・小のトロイカは完全に崩壊し、民主党は分裂か自壊の道をたどりだしたようにみえる。
次に森さん。当選十四回、議員歴四十年の政界最古参、首相経験の自民党現職のなかでももっとも古く、いわば同党の最長老である。亀井さんは当選回数が森さんより三回少ない十一回、年齢は一歳上の七十四歳、昔から二人は肝胆相照らす仲だ。最近の森さんも、
「解散に追い込んでムードで勝っても、チルドレン(一回当選議員)が入れ替わるだけだ。そんなことを繰り返しても仕方ない。日本の政治が発展しなかった責任は自民党にもある」と谷垣自民党が解散を要求するワンパターンの対決姿勢を批判している。
つまり、民主、自民両党の現状に強い不満を持つ二人の首相経験者に、亀井さんはまず仁義を切り、両党の枠組みを超えた新政治勢力の結集に向けてアクセルを踏む決意を示したのだ。しかし、まだ細かな絵が描ける段階ではないから、救国内閣という言葉に託したのだろう。
今年、政治は多分大きな激しいうねりを見せる。そうせざるをえないところにきている。だが、うねりは自然に起きるわけではない。舞台を回転させる人物が不可欠だ。
一九五五年の保守合同を成就させた三木武吉、大野伴睦のようなプロの舞台回し役がいないと、機だけ熟しても動かない。亀井さんは数少ない〈平成の仕切り屋〉の筆頭格だと私はにらんでいる。亀井さんに最後のご奉公をお願いしたい。(サンデー毎日)
杜父魚文庫
7210 亀井静香さんの「再編シグナル」 岩見隆夫
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