7296 「小沢処分」めぐり緊迫化する永田町 花岡信昭

民主党は小沢一郎元代表の処分について「党員資格停止」とすることを「決めた」。「決めた」とカッコ書きにしたのは、いったい正式決定したのかどうか、何とも一般には分かりにくいからだ。
まず14日の役員会で「決めた」らしいのだが、これは党員資格停止の処分にすることを常任幹事会に提案することを決めたということだ。15日の常任幹事会では党倫理委員会にはかることを決めた。
これは党の倫理規則で、処分を行う場合は倫理委員会を開かなくてはならないとなっているからだ。倫理委員会の委員長は渡部恒三氏である。かつては小沢氏の盟友だったが、今は完全にたもとを分かっている。
倫理委員会は本人からの聴取を行うことになっており(22日に実施する)、これを踏まえて常任幹事会に意見を提出する。小沢氏は不服申し立てをすることができるから、最終決定の常任幹事会がいつになるかはどうもはっきりしない。
民主党の組織において、意思決定の権限は役員会よりも常任幹事会が上位にある。自民党でいえば総務会に当たると見てよさそうだ。
◇小沢氏は謹慎の気配なし
菅直人首相(党代表)は年初には「裁判に専念されたらいい」と議員辞職を求めるかのような強気の発言をし、最近になって小沢氏と会談、離党を求めた。最高トップが動いて小沢氏が従わないのだから、菅首相の権威はさらに落ちた。
党の倫理規則によれば、処分には3段階あって、「党員資格停止」「離党勧告」「除名」となっている。党員資格停止は最も軽い処分である。党員資格が停止されれば、党の選挙区支部長にはなれないし、選挙では公認されず、代表選挙での選挙権も被選挙権もなくなる。だが、小沢氏とすれば当面の政治活動にほとんど支障はない。
一般には、強制起訴されたら政治行動は制約されるという見方が大勢のようだが、そこは小沢氏だ。「通常の検察の起訴とは違う」と突っぱねており、これで謹慎するようなそぶりはまったくない。
そうした状況にあって、党員資格の停止という軽い処分は菅首相にとっても危機的局面を回避するうえで都合がよかった。離党勧告、除名といった重い処分を突き付けたら、小沢氏はどういう行動に出るか分からない。
仮に「単独離党」であっても、小沢氏は党外から系列議員を差配しようとするだろう。むしろ身軽になった分、自由に動ける。
菅首相にとっては、たとえわずかな人数であっても小沢氏が系列議員を引き連れて離党し「新党」を結成するような展開は、何としても避けなくてはならない。
通常国会の最大のテーマは、新年度予算案と関連法案の年度内成立である。4月第1週に成立すれば事実上の年度内成立として扱われる。財政運営にほとんど影響はないからだ。
◇小沢系議員に集団造反の動きも
3月初めがヤマ場となる。予算案本体は衆院で強行採決でも何でもいいから可決すれば、30日後に自然成立する。問題は関連法案だ。
これは衆参両院の可決が必要で、成立がずれ込むと、子ども手当支給や特例公債の発行ができなくなる。したがって、菅首相としては、社民党(衆院6議席)を引きずりこんで、衆院での再議決が可能な与党3分の2ラインにこぎ着けるという裏技を使いたい意向という。
その場合、社民党懐柔策として、普天間関連経費の執行凍結などが浮上している。予算と関連法案の成立のためにはなりふり構わずといった感じだ。
そういうきわどい国会情勢にある以上、小沢系議員が本会議に欠席するなど集団造反は避けなくてはならない。だが17日、小沢系議員16人が会派離脱の動きを見せるなど、永田町は一気に緊迫化した。
そこで、党員資格停止という処分の正式決定時期が微妙な要素になっていく。本会議採決とからむ時期だと、小沢系議員たちもそれなりの反撃をしなくてはならなくなる。
そこで、小沢氏の不服申し立てなどを理由として、処分の正式決定を大幅に遅らせるというウルトラC級の対応が出てくるかもしれない。早い話、予算と関連法案の年度内成立を果たすまで処分は正式には決めないということだ。
そうではなくて、早い段階で決めてしまい、国会の重要な時期と分離するという手もないわけではない。小沢系議員の騒ぎを一過性のものと判断すれば、それも可能だ。
予算本体は衆院での強行採決で乗り切れるとしても、関連法案の年度内成立に失敗した場合、どういうことになるか。支持率が20%前後にまで落ち込んだ菅首相だ。内閣総辞職しかないようにも思える。
◇首のすげ替えか? やぶれかぶれ解散か?
自民党がやってきたように「首のすげ替え」で乗り切ろうというわけだが、菅首相の性格を知る周辺からは「総辞職するぐらいなら、解散・総選挙で突っ走るだろう」といった声も聞こえてくる。となれば、関連法案の成立を条件とした「話し合い解散」か、あるいは「やぶれかぶれ解散」か。
いずれにしろ、代表を務めた小沢氏の処分をめぐり、基本的認識のズレが政権の危機をもたらしたのは確かだ。ここはどこまでも小沢氏のメンツを守り、「党の危機を救うため、ご決断を」というかたちに持っていかなくてはならなかった。それが、是非論は脇に置くとして、成熟した大人の政治というものだ。
杜父魚文庫

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