7431 福島原発事故とチェルノブイリを同一視するな 川口マーン恵美

原発の話です。ドイツでは、福島原発の事故について、日本全体がまもなくチェルノブイリになるかのような、エキセントリックな報道をしています。
SPDと緑の党が、30年来の原発賛否論に決着を付けられると思い、福島の事故を利用しているのはわかりますが、なぜ、すべてのマスコミが、それに乗ってしまうのか。ドラマティックな話は、人々をひきつけるのでしょうか。
ドイツは、今年、大きな州選挙を三つも抱えているので、それに原発が利用されているのは、大変遺憾です。ちなみに、原発容認派(CDUなど)は、原発がベストだといっているわけではありません。ただ、いっぺんに廃止することは現実として無理なので、代替エネルギーの供給と価格が現実的になるための努力をしながら、段階的に廃止していくべきだといっているのです。いっぺんに原発を廃止したらどうなるかは、東京の住民が、今、身に染みて感じているところです。
中国でも、一昨日の日曜日、福島の原発事故についての対策を練るため議会を開き、テレビは一日中、自分たちが大いなる危険に晒されているということを報道していたそうですね。
常日頃、黄砂に乗せて、有害物質を送り込んでいるというのに、今では、政府は、国民の健康が、日本によって損なわれることを深く憂慮しているのです。出演していたコメンテーターの中国人学者が、かつて日本の大学に留学していたということで、東北の惨状を見て泣き出すという感動的なシーンもあったそうです。
それを聞いて、昔読んだ、文化大革命の光景を思い出しました。いずれにしても、今の状況では、福島から放射性物質が何千キロも飛んで、隣国の国民の健康に悪影響を及ぼす可能性のないことは、物理学者なら、誰でもわかるはずです。一般市民は騙されますが。
私の知り合いのご主人が、 日本の原子力の父ともいえる人物で、その人の話では、福島で起こっていることが、チェルノブイリになる可能性はないとのこと。
チェルノブイリのとき、放射性物質が遠くまで飛んだのは、大火災があったからで、福島は、最悪のシナリオでも火災はない。だから、局地汚染は起こりうるが、それでも20キロも離れれば、被爆はないそうです。日本政府が発表していることに、嘘はないということです。ドイツや中国が報道していることは、嘘ではないが、起こる可能性としては非常に小さいので、政府がそれを発表しなくても当然だというのが、彼の意見です。
なお、水素の爆発で放出される放射能は、微量で、今のところ一切問題がないということです。
服についた少々のチリも、あまりにも性能のよい検査器が見つけてしまい、その人は被爆とされてしまうらしい。ただ、テレビには、宇宙服のような装備の隊員が、動かなくなった被爆者を担架で運んでいるようなショッキングな映像がでますから、それを見た人は、日本は大変なことになっていると思うわけです。
日本にいるドイツ人たちはパニックになって、怒涛のごとく、日本を逃げ出しました。私の元にも、ドイツの友人たちから、すぐに帰って来いというメールがひっきりなしです。今、飛行機のチケットは、すべて向こう7日ぐらい、売り切れています。今日、残っていたのは、カタール経由の南回りだけでした。
今朝の報道では、フジテレビのコメンテーターで、初めて、「海外では、日本全体が放射線に汚染されたような報道がなされている。官房長官は、海外に向かって、真実を発表すべきだ」と述べた人がいました。まったく同感です。
いずれにしても、ドイツの40年来の原発論議にも、これで終止符が打たれる模様。地震の翌日の土曜日には、わが州バーデン・ヴュルテンベルク州の州都シュトュットガルトから、ネッカー川のほとりの原発までの24キロを、原発反対派の人たちが手に手を取って、人間チェーンを作ったのです。SPDの党首ガブリエルは、しめしめと思っているのでしょうが、「この悲惨な事故を、今、政治の論議にするのはやめたい」などと、余裕の発言をしています。
前述の知り合いの原子力の父は、自分たちが築き上げた、日本の原子力発電所の世界一の技術を誇りに思っていた人で、今回のことでは、ショックを受けています。なぜかというと、耐震技術というのは、非常に高度で、お金も掛かる。そして、それは完璧だった。
ところが、今回の事故は、揺れによるものではなく、単に、注水に関わる部分に、たくさん海水が被ってしまったことによって起こったものだった。要は、まさか5m以上の津波が来ることを考えていなかったというだけのことなのです。これを防ぐことなど、たいした技術もいらず、お金も掛からなかったはずです。
でも、これで原発の未来はなくなるだろうし、では、自分が一生熱中してやってきたことは何だったのだろうと思うと、とにかく無念だということです。
長くなって、申し訳ありませんでしたが、ドイツ人が全員、逃げ出す様子を目の当たりにしたので、先生に、このドイツの報道の横暴さをお伝えしたくて。チケットが買えなかったドイツ人は、九州や関西に逃げています。(在独作家)
 
杜父魚文庫

コメント

  1. barbara より:

    命は一つです。自分の家族は日本にいます。アメリカにいるわたしにとっては 
    まんがいちのため ドイツに逃げる人たち気持ちわかります。

  2. アワアワ より:

    原子力発電所の安全性というのは、原子炉だけではなく、システム全体での安全性です。
    >「まさか5m以上の津波が来ることを考えていなかったというだけのことなのです。」
    これは今まで、津波の問題を指摘してきた人たちにとって失礼でしょう。
    今まで国内外からシステム全体の安全性について指摘されていたにもかかわらず、それを無視してきた。
    今回の事故は、対して根拠もないのに安全性をうたってきた日本の原子力全体の責任だと思います。

  3. 魔笛 より:

    問題は3つあります。
    一つは、日本人の高度の責任を有する人のリスクマネージメントの脆弱さと、自分たちにとって都合の悪い科学的客観的地質学的な事実を受け付けない体質。
    もう一つの問題は、原子力発電の日々の修理に関して、日給1万円、前歴不問、年齢不問の求人広告に依存している。クラフトマンシャフトなんてはじめからないみたい。
    最後に、最新の高度の安全技術でも、一度運転を開始した発電所からは、使用済み核燃料がのこる。これは300年近く安全に保管しなければならない。貴方も私も後よくて50年くらいで天国に召されますが、西暦2311年になって、未来の日本人は、2011年の3月に使用済みになった核燃料を保管する義務がある。必要悪だから、いいじゃんいいじゃん、多めに見てくれよ、と言える特権は私たちには無い。

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