7509 菅政権の「脱官僚」が失態を招く 古森義久

安全保障の研究で知られる平和安全保障研究所理事長・西原正氏が興味ある指摘をしています。
日本が目下、直面する大規模な地震と津波、それに福島第一原発の部分的炉心溶融による被害はまさに国難である。日本はこれまで多くの地震災害に見舞われ てきたが、今回は原発からの放射能飛散という深刻な要素が加わり国際的問題になりつつある。複合的な被害に対処する日本政府がどのように復興再建するかを 世界が注視している。日本がこの危機を乗り越えられないはずはないが、しかしそれには要件がいくつかある。
第一に、何といっても、首相 以下政府の指導力だ。菅直人首相をはじめ菅政権の人々は、国家レベルの緊急国民保護態勢を指導した経験がなく、政権担当者の重責を痛感しているに違いない。原子炉の破損問題など、その重要性に鑑(かんが)みて、先手を打って解決すべきなのに、後手後手に回っている。
≪「脱官僚」決別し野党も使え≫
この国難にあってまず重要なのは、「脱官僚」といったスローガンと決別し、官僚を大いに活用すること、そして、野党の中の有力経験者を抜擢(ばってき)し て挙国一致の災害対策本部を作ることである。自民党などの有力者が責任の一端を担うことで国民にも安心感を与えることができるであろう。この国難にあって、野党有力者の存在感が薄いのはどうしたことなのか。
第二に、各種災害への対応の効率を上げることである。今度のように突然に想定外の災害が起きた場合への対応は、確かに簡単にはいかない。主要幹線道や近隣の空港、港湾などが地震で使用できないときの代替支援ルートの緊急開設など困難な課題が多い。
昨年12月に策定された防衛大綱には、「我が国の安全保障の基本方針」のところで、「各種災害への対応や国民の保護のための各種体制を引き続き整備するとともに、国と地方公共団体等が相互に緊密に連携し、万全の態勢を整える」とある。
実際のところ、今度のような複合的大規模災害は防衛省・自衛隊だけで扱えることではない。国のレベルで中央政府の指揮下に動ける体制が必要である。そしてテレビでの被災者の声を聞くと、生活関連物資がいつ配達されるのか、医者はいつ来てくれるのかなどの情報が決定的に不足していることを訴えている。特に病院への医薬品の安定的支給や人工透析装置などの確保、自動車のガソリン、避難先の暖房などが喫緊である。
原子炉損傷の問題でも枝野幸男官房長官と原発を運営する東電担当者が別々に状況を説明しているが、これなども一元的になされるべきだ。混乱時はある程度仕方がないとしても、情報提供の方法の早急な改善がぜひ必要である。
≪海外は原発事故に過剰反応?≫
第三に、政府は災害情報を的確に提供して外国の大使館やマスコミの過剰反応を抑制することだ。災害が起きると、その被害や被害予想が誇張される傾向がある。原発施設の故障に関してはチェルノブイリ事故の例もあるので、とりわけその傾向が強くなる。これまでのところ、政府の情報提供は落ち着いており、関連被災者も、政府の出す退避や屋内退避に関する指示に忠実にしたがっている。
だが、「フクシマダイイチ」に関する評価は日米で異なってきており、外国マスコミは危険予測を誇張して伝えてもいる。「死の恐怖にある東京」(ドイツ紙ウェルト)などいうのがあるそうだ。オーストリア大使館など一部の在京大使館は閉鎖したり大阪に機能を移したりしている。独ルフトハンザ航空は成田空港発着を中部空港に切り替えている。中国、香港などは日本から入ってくる食品の放射能汚染検査を始めたという。明らかに行き過ぎではなかろうか。政府は、積極的な広報活動をし外国政府やマスコミの信頼を得られる努力をしなければならない。
≪日本再生への構想力を示せ≫
第四に、指導者は大規模災害から立ち上がるべく、国民を鼓舞することだ。すでに被災者たちが沈着に事態を受け止め、忍耐強く寒さと飢えに耐え、関東の住民は計画停電に静かに協力して、難局を乗り越える姿勢を示してきた。
15万人足らずの陸上自衛隊が10万人をも震災復旧の任にあてている。それに、即応予備自衛官を招集する。これは自衛隊にとって最大規模の任務遂行であろう。自衛隊や警察が身の危険を顧みずに原子炉の冷却に取り組んでいることは、まさに称賛に値する。
こうした人々に応えるためにも、与野党の政治指導者は、政争をしばし脇において、予算関連法案ならびに災害復旧対策のための補正予算案を速やかに国会で決定すべきである。そのために財源の確保も、子供手当などの一時支給停止とか、特別税、あるいは消費税の増額、地方債など思い切った措置をとるべきである。 国会が迅速な法案成立に国を守る気概を見せ、寒冷地で黙々と働く自衛隊や医師、ボランティアたちに感謝の決議などをすることで被災者をはじめ国民を励ますことができる。
菅政権は、この難局を日本再生につなげるビジョンをもって取り組むべきである。日本人は今ある政権を支えて頑張るしかない。(にしはら まさし)
杜父魚文庫

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