※菅首相が谷垣自民党総裁に入閣要請
地震、津波、原発の三重苦だ。それもいずれも戦後最大級の深刻な規模である。東北地方の太平洋側はほぼ壊滅状態で、国家的事業としての一大復興プロジェクトに取り組まなくてはならない。
まさに「国難」である。政治の責任はいよいよ重くなり、旧来型の攻防戦を展開していていい局面ではない。どういうことになるのか。頭の体操の意味合いも込めて、予想してみよう。
そこで浮上してきたのが、「救国大連立」だ。菅首相は自民党の谷垣総裁や大島副総裁に入閣を要請した。
これを自民党側はすげなく蹴った。それも当然だ。なにせ、菅首相は電話で入閣要請をしてきたというのだから、これは常識を欠いている。
未曾有の局面だから、何があってもおかしくはない。このさい、自民も民主も政治休戦して、「復興大連立」でこの難局を乗り切ろうという発想が出てきても不思議ではない。
だが、それには周到な手順、段取り、調整が必要だ。実力者を間に立てて、水面下で折衝を進め、一気にことを運ばなければ、実現するわけがない。
いま、調整役ができる実力者といえば、何人か頭に浮かぶが、公言するのは避ける。
※菅首相は自分を「無」にできるか
政治の世界では、菅首相が谷垣氏に電話してきたのは「民主党内の菅おろしを封ずるためのアリバイづくり」という見方が出てしまった。
菅首相にしてみれば、これだけ辞を低くして打診したのに蹴飛ばされた、と懸命な努力のあとを示すことができる。それが狙いだったということになる。
それになんといっても、衆参ねじれの政治構造の中で、挙国一致の大連立をつくろうとするのなら、菅首相自身が「無」にならなければだめだ。
自分の身はどうなってもいい、ここは政治攻防を展開していてすむ局面ではない、大連立で臨まなければ日本は沈没してしまう……という構えで臨まないと、救国政権はできない。
そうやって臨んで初めて、菅首相のもとでの大連立が成功する可能性が出てくる。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、というのはそういうことだ。
本来は、自民党から首相を出すのが手っ取り早い。民主党側がそれで割り切れば、大連立はすぐにでもできる。
※可能性があるのは安倍晋三元首相の登板
もっとも、大連立に参加するのは、社民、共産両党を除いた政治勢力だ。社民、共産両党は自衛隊からの信頼が皆無といっていい政党だから、被災者の救援に自衛隊10万が馳せ参じている状況にはそぐわない。
社民党は民主党が衆院3分の2の再議決ラインを獲得しようとするときには何としても必要な勢力だったが、大連立となれば、その瞬間に不要となる。邪魔な存在に一変する。
仮に自民党から首相を出す場合は、谷垣総裁がそのままという可能性は薄い。今度は自民党側で党内抗争が始まってしまう。
その場合、あえて予測すれば、安倍晋三元首相ではないか。小泉政権以後の三人の自民党首相のうち、安倍氏だけが「病気退陣」だった。これは病気が治った以上、再登板の可能性が残されているということを示す。年齢が若いこともあって、救国政権のリーダーとしては最もふさわしい存在という見方も可能だ。
もっとも、こうしたシナリオが現実のものとなるのは、菅首相がさまざまな対応に失敗しギブアップ寸前に至った場合だ。政治家としての決定的なダメージとなる直前に身を引くことで、政治力を残そうとするケースである。
当面は菅政権でぎりぎりまで踏ん張ろうとするのだろうが、以上のような展開も頭のすみに置いておかないと、この難局乗り切りの道筋を見誤ることになりかねない。
※船頭ばかりが多くなる
仙谷由人氏を官房副長官に起用、内閣の仕切り役に据えて野党折衝も含めその政治力に頼ろうとしている。たしかに、仙谷氏は民主党内では腹芸もできるし、野党側や官僚組織とのパイプも太いという点で、数少ない貴重な存在だが、船頭ばかり多くなった印象を受ける。
節電対策に蓮舫氏、ボランティア対策に辻元清美氏を起用するなど、世間受けを狙った対応ばかりが目立つ。
枝野官房長官はもっぱら原発対応のスポークスマンだ。この大災害全体を統括しているというよりも、そういってはなんだが、東京電力と原子力安全保安院の広報代表といった趣である。
原発対応はどうにも場当たり主義が先行する。20キロ圏内は避難、20-30キロは屋内退避の指示を出したが、これが30キロまでは汚染地域であるかのように扱われて、物資輸送の車が入ってこないという風評被害に直面している。
各地に設けられた避難所の過酷な状況が伝えられているが、先進国とはとても思えない対応である。政治の無策がこうした状況を引き起こしたといっていい。
※いただけない出荷停止に至る対応
最悪の対応が福島、栃木、群馬、茨城などのホウレンソウや原乳の出荷停止である。 原発事故が起きて、厚生労働省は原子力安全委員会の規制数値をもとに、ばたばたと暫定基準値を決めた。
放射線の調査で、この暫定値を上回ったとして出荷停止を指示した。原子力災害対策特別措置法に基づく首相指示である。
法的拘束力はないのだが、国の指示による措置だから、農家には減収分の補償が行われる。だが、これも風評被害を生んで、ホウレンソウはこれ以外の産地のものでも売れなくなるという事態を招いた。
検出された放射線値は、健康被害などまったく出ない程度のごく微量な水準である。万に一つの事態に備えてというと聞こえはいいが、もともと、非現実的な規制数値を踏まえた暫定値であって、官僚組織の責任回避体質のあらわれといって過言ではない。
※個別の事象に振り回されるな
福島第1原発は地震によって自動停止した。その限りにおいては原発の安全性の高さが改めて立証されたことになる。だが、津波被害が想定を超えていた。
冷却システムへの電気が遮断されるなどして、炉心溶融(メルトダウン)の恐れを招き、東京消防庁や自衛隊なども含めた決死的な海水による放水作戦が展開された。
原発の事故対策としては「止める、冷やす、閉じ込める」の三段階が必要とされているが、世界中が震撼する割には、最大限の対応が図られたといっていい。
これが政府、原子力安全保安院、東京電力の説明責任が貫徹していなかったことなどもあって、在日外国人の一斉出国といった事態まで招くことになる。個別の事象に一喜一憂し、全体像を示せなかったのは、やはり政府に最終責任があると見るべきだろう。
※いつの間にか小沢一郎氏が復権
菅首相は代表経験者を招き、協力を求めた。これに小沢一郎氏がしれっとして出席、最大限の協力を約束した。
党員資格停止の処分を受けている身である。呼ぶ方も呼ぶ方だが、これに応ずる小沢氏もたいしたものだ。これによって、小沢氏の献金問題などはどこかに吹き飛んでしまった。菅首相には在日外国人からの政治献金問題が浮上していたが、これと相打ちになったかのようだ。
そのことを考えると、あまり発言も聞こえてこない小沢氏だが、いざ大連立といった局面になれば、ぞろりと動き出す可能性なしとしない。民主党内では依然として小沢系議員がそれなりの存在力を示している。
そうした状況を考えると、大連立に向かうような展開になった場合、「小沢抜き」というキーワードはなくなっているかもしれない。
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7529 「救国大連立」はできるか 花岡信昭
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