7555 自衛隊をいつまで日陰者にしておくのか 古沢襄

東日本大震災の被災地で自衛隊の将兵が献身的な救援活動をしている状況は多くの人の感動を呼んでいる。このような大災害では、自衛隊の組織力、機動力が欠かせない。出動した自衛隊の部隊は一〇万を超えている。その主体は陸上自衛隊である。陸上自衛隊の定数は一五万二〇〇〇、三分の二が災害出動したことになる。
日本の自衛隊の総兵力は二四万、年間の予算規模は四兆七〇〇〇億円。このうち人件費は防衛予算の44%を占めている。こう数字を並べ立てられても、国民にはよく分からないであろう。反戦団体からは「税金泥棒」と心なき罵声も飛ぶ。沖縄では旧日本軍の延長として自衛隊アレルギーが払拭されない。
世界の軍事費額でいうと、日本の四兆七〇〇〇億円は米国、中国、英国、フランス、ロシア、ドイツに次いで七位。ドイツの四兆八〇〇〇億円とほぼ肩を並べている。GDP比で0・9%であって、ドイツの1・3%のより低く抑えられている。韓国は二兆七〇〇〇億円だが、GDP比では2・8%。ロシアの六兆一〇〇〇億円に至ってはGDP比では3・5%。
菅首相は28日、防衛省を訪れ、職員らを激励した。大震災発生後、自衛隊の最高指揮官である首相が同省を訪問したのは初めてである。防衛省災害対策本部会議に北沢防衛相とともに出席した首相は、被災地で活動する自衛隊員について「肉体的だけでなく、精神的にも大変、厳しい任務を遂行してもらっている。福島原発の事故でも、命がけでの作業を率先してくれている」とねぎらった。
北沢防衛相は「今ほど国民と自衛隊の距離が縮まったのは過去の歴史にない」と述べ、奮起を促した。だが距離をとってきたのは、民主党政権の側だったのを忘れている。だから暴力装置という心なき仙谷前官房長官の発言が飛び出す。
<菅直人首相は28日、東日本大震災を受け自衛隊が10万人態勢で活動している防衛省を訪れ、職員らを激励した。大震災発生後、自衛隊の最高指揮官である首相が同省を訪問したのは初めて。
省の会合に出席した首相は、被災地で活動する自衛隊員について「肉体的だけでなく、精神的にも大変、厳しい任務を遂行してもらっている。福島原発の事故でも、命がけでの作業を率先してくれている」とねぎらった。さらに「長期間の作戦が必要になることを念頭に取り組んでほしい。掛け値のない国の危機を何としてもおさめるため、一層の努力を」と指示した。
会合に先立ち、首相は同省地下3階にある中央指揮所も視察。北沢俊美防衛相も「今ほど国民と自衛隊の距離が縮まったのは過去の歴史にない」と述べ、奮起を促した。
また北沢氏は同日、自衛隊のヘリコプターで宮城県を訪れ、津波で水没する被害を受けた航空自衛隊松島基地(東松島市)などを視察した。(毎日)>
どこの国でも自国の軍隊を大切にしている。国民の生命、財産を守るのは国軍だからである。だが敗戦国の日本は戦後、自衛隊を厄介者扱いにしてきた。日陰者扱いが保守政権を含めて日常的に繰り返されてきた。吉田元首相は第一回防衛大学校卒業式典で「日陰者の人生に耐えてもらいたい。諸君が日陰者であるほうが国民や日本は幸福である。」と訓示している。
一国の首相が国軍の幹部のタマゴに「日陰者であれ」と訓示する例は世界にもない。
日本国憲法第9条は”戦争の放棄”と”戦力不保持”、並びに”交戦権の否認”を定めており、日本政府の政府見解では自衛隊について通常の観念で考えられる軍隊とは異なるとしている。つまりは”戦力なき軍隊”であり、日陰者なのである。大災害に見舞われ時だけ「自衛隊よ、有り難う」というのは勝手すぎはしないか。
この矛盾を整合化するために憲法は自衛権を放棄しておらず、その自衛権の裏付けとなる自衛のための必要最小限度の実力は憲法第9条第2項にいう「戦力」には該当しないという法解釈をとってきた。苦し紛れの法解釈を戦後、半世紀も続けてきた。やはり自衛隊を国軍として公に認知する時期にきたのではないか。
何故こういうことを言わねばならぬのか。
それは自衛隊の不幸な生い立ちを知っているからである。「2年務めれば、退職金六万円」の甘いキャッチ・フレーズで警察予備隊の志願者を募った昭和25年8月のことであった。昭和27年8月に警察予備隊は保安隊となり、同時に海上部隊(警備隊)も新設された。
昭和29年7月に防衛庁が発足して、保安隊は陸上自衛隊、警備隊は海上自衛隊となり、あらたに航空自衛隊も創設された。それでも国軍を掌るのは三等官庁の防衛庁、防衛庁長官は蔵相や外相より低くみられてきた。防衛庁が防衛省に昇格したのは安倍内閣になってからである。しかし防衛予算は毎年、削減の対象となってきた。
だが名称の変更に伴って、「部隊活動は警察の任務の範囲内(警察予備隊)」から「国の平和と秩序を維持し、人命、財産の保護をする(保安隊)」、「直接、間接の侵略にたいし国を防衛することを主任務(自衛隊)」と性格も明確化されてきている。
自衛隊の災害派遣は自衛隊法第83条によって定められており、天災人災を問わず災害時に各都道府県知事、災害対策本部長などの要請によって防衛大臣やその指定するものが部隊等に出動を命令し、救援活動を行ってきた。災害派遣には大規模災害派遣、原子力災害派遣が含まれている。
地震や津波、原子力災害に見舞われる日本は、警察力や地元消防団、ボランテイア活動だけでは対処できない。陸上自衛隊を中心とした組織力、機動力を活用した大規模救援活動が欠かせない。
東日本大震災によって早期の自衛隊投入の必要性が実証された。震災発生から2週間が過ぎ、被災者の疲労が増しているが、救援に当たった自衛隊も隊員の疲労度が高まっている。長期化する救援活動には、自衛隊員の交代・休養などが必要になろう。政府が十分な配慮をしているのだろうか。
災害は東日本大震災だけで終わらない。東京直下型地震や東海大地震の恐れがある。防衛庁時代から予備自衛官三万人以上の予算措置が求められていたが、現状の予算枠は8000人にとどまる。国民生活を第一に考えるなら、災害対応の自衛隊のことを真剣に考えるべきである。それはこども手当よりも緊急にして重要な課題ではないか。
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コメント

  1. チョコ より:

    困った時にだけ自衛隊を酷使、称賛。
    交代要員もなく彼らを酷使する管政権は、実は自衛官を物扱いしているんだろうか?彼らは当然、生身の人間であり家族も居る。
    反自衛隊派は、今は息を潜め、状況が落ち着いた時点でまた「煙草吸ってる隊員映像」的な物を掲げ、バッシングするんだろう。
    言いたいことは山ほどあるけれど、こんな政権でも、こんなにこき使われていても、黙して語らぬ自衛官。
    無知なのもあるけれど、彼らは本当に純粋だ。

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