7586 この巨大地震が教えたもの 矢野惠之助

「頂門の一針」が復刊した。まずはお慶びを申し上げる。復刊第一号に矢野惠之助氏が「この巨大地震が教えたもの」を書いている。矢野氏は秋田市の人なのだが、裏日本に住む人の視点は尊い。示唆に富む見解なので転載させて頂いた。(古沢襄)
~「陽の当たらぬ僥倖」~
酸鼻を極めた東日本大震災。青森から千葉に至る太平洋側の海岸地帯は、未曾有の災害にうちのめされた。「貞観地震の再来だ」というのは産業技術総合研究所で海溝型地震暦研究チームを率いる宍倉正展さんである。(3/29付・産経新聞)
貞観地震とは貞観11(869)年に東北地方を襲った大地震であり、宍倉さんは「いつ再来してもおかしくない」と警鐘を鳴らしつつ、その研究成果を防災上に生かそうとする途上に襲って来たと言う。この人の研究では、東北地方は500年~1千年の間隔で繰り返し巨大津波に襲われていることも、ボーリング調査などで判明しているという。
大きな被害が予想される自治体では、この警告に対して「そんな長い間隔の地震は、対策を練っても仕方がない」と、鈍い反応だったという。「この後は神のみぞ知る」とのたもうた政府要人もいたようだが、東北のいわゆる「裏日本」に住む筆者や筆者の周囲の人間は、ずっと前から世の中が「表東北」主体となっていることの危うさを感じていた。
4つもの巨大なプレートが互いに鬩ぎ合う太平洋沿岸地帯というのは、常に巨大地震と大津波がセットで襲来する危険地帯であることは、筆者が言うまでもない事実である。
東北新幹線が開業して以来、今までひなびた地方都市であった盛岡が脚光を浴び、更に八戸、青森と伸張して「表東北」は我が世の春を謳歌し、その「表東北」のシンボル的存在の仙台市は、東北のあらゆる首都機能を集約して今日に至った。
その仙台が、空港を津波にさらし、新幹線の駅を破壊され、高速道路を破壊され、機能がストップしてしまった。この影響は,直接被害にあった青森、岩手、宮城のみならず、「裏東北」の秋田、山形にまで甚大な被害をもたらしたのである。
その最たるものの一つ、消耗品化している医療器材の枯渇は、秋田あたりの医院や病院までパニックに陥れた。殆んどと言っていい産業物資の供給企業が仙台に統括支店を置いている現状に、理不尽な窮状に当面している「裏東北」の青森県知事が、「青森港は健全だ。是非このルートを使って欲しい(北前舟の再来か)と進言したのは、当然のことであろう。
翻って「裏東北」は、局部的な断層地震はあるにしても、津波も小規模であり範囲も限られている。その『裏東北』は、新幹線も山形、秋田ともに「新幹線もどき」であり、高速道路も寸断されて連続整備も置き去りにされている。利用客が少ないとはいえ、JRも奥羽本線の秋田~山形間は特急はおろか急行も走っていない。
今、秋田では住む人のいなくなった家が、被災地から避難してくる人たちの、移転先として使われるという皮肉な状況にある。
陽の当たらぬ「裏東北」ゆえに秋田は東北で一番被害がなかった。福島の原発事故による放射能の恐怖も、<ネック視>していた奥羽山脈のお陰で、殆んど影響がない。
今回の大災害は、一極集中化の物流ルートの崩壊という現実をさらけ出したと言っていい。いわゆる「表日本」に頼り切った我が国のこれまでを猛反省する機会でもあるのではないだろうか。(やのえのすけ 秋田市在住)
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました