◆「原発敗戦」◆
福島第一原発事故の一日も早い終息と東日本大震災からの復興を願いつつ、これについて書きたい。3月11日の大震災は天災だが、それによって引き起こされたとは言え、未だ収まらぬ原発事故は明らかな人災である。
その原因は、政権中枢、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、東電等の各組織に跨る次の3点に集約できるだろう。
(1)予見されていた大津波や電源が全て失われた場合への対策を打っていなかった非合理性
(2)事故対応の遅さと不首尾に現れた官僚体質による無責任体制と主体性の欠如
(3)一回目の水素爆発から発表が5時間後になった事に象徴される情報隠蔽体質
これらは、太平洋戦争に於ける彼我の戦力分析等についての非合理性、陸海軍内の責任体制の曖昧さ、「大本営発表」に象徴される情報隠蔽に符合する。今回の事態は、日本にとって言わば「原発敗戦」ともいえる第二の敗戦である。
当然ながら、上に挙げた問題が根本的に是正されない限り、たとえ今回の事故が終息したとしても今後日本に原発を持つ資格は無い。しかしながら、問題は原発や事故に留まらない。
◆復興への意識革命◆
今回の震災被災地域で略奪行為等が殆ど行われなかった事や避難所での被災者の秩序だった辛抱強い行動が、海外メディアから驚きと尊敬を持って報じられている。
これらは、日本の神代に遡る水稲農業等によって培われた共同体の強さ、神道の「明き清き心」や「祓いと清め」等のシンプルな教義に根差した道徳性の高さに由来するところが大きい。
またそれらは、国民一丸となって成し遂げた戦後の急速な復興の原動力になった事は間違いない。
だが、反面で日本の集団主義や構造的思考力の欠落が、上に挙げた非合理性、無責任体制、隠蔽体質を許す温床となった事も否定できない。
またそれは、震災前にも進んでいた日本の長期凋落の原因でもある。更に、今回の震災で一定の復興需要はあるが、経済的にも日本が世界の二流国に落ちぶれる危険性が国内外から指摘されている。
欧米諸国も時に様々に大きな失敗をするが、概ねそれを教訓とし合理的な対策を重ねた歴史と言えるだろう(一神教の行き過ぎた善悪二元論にも別な問題はあるが)。
「日本人の底力があれば必ず復興できる」とは、TVコマーシャル始めよく耳目にするようになった耳当たりのよいフレーズだ。
しかし筆者は、今後日本が震災から復興し、かつ国際競争を勝ち抜くためには、今までの延長だけでは不十分と考える。
今回の大震災と原発人災を機に、伝統的価値に根差した強みをメリットとして生かしつつも、合理性、明確な責任体制、情報オープン化等を新たに移植し、更にそれらを主体的に戦略的思考の下に統合するような2千年来の日本人の意識革命、精神革命の大転換が必要である。
これを基に、斬新で大胆な東北復興計画、新エネルギーを含む産業への官民合わせた投資を政府の明確な主導で戦略的に行わなければならない。日本は今、自らの未来を決する歴史の岐路に立つ。
杜父魚文庫
7677 震災復興には日本人の意識革命が必要だ 佐藤鴻全

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