こんな秘密作戦が存在したことを、多くは知らない。日系アメリカ人の442部隊が表部隊だとすれば、第二次大戦欧州戦場の裏では?
第二次大戦中、フランスのレジスタンスは三派に分かれていた。戦後、レジスタンスを中心的に戦ったかのように意図的な政治宣伝を展開した共産党、社会党系列。左翼作家のジャン・ポール・サルトルは幾つかの作品を書いたが、ドゴールのように愛国主義、フランスの栄光をもとめた亡命者らの戦いを実践した側からみれば、サルトルらのレジスタンスはニセモノだった。
そして土着的かつ独裁に対抗する戦いがあったということをレジスタンスを体験したスムラー氏から直接聞いたことがあるのだが、二十年ほど前のこと、詳細は忘れている。
アルフレッド・スムラー氏には『アウシュビッツ186416号日本に死す』(扶桑社、1995年。吉田好克、竹本忠雄訳)というアウシュビッツからの生還記があることを、なぜか頭に浮かべながら、本書を手に取った。
表題の『ジェドバラ』とは何だろう?すくなくとも軍事歴史に精通した人以外、知らないのではないか。これは欧州解放の裏側にいて作戦に従事した無名の、多国籍軍の秘密工作部隊だった。
ノルマンディ上陸の二年前から、仏国内へ忍び込み、ドイツと戦う組織を作り上げた。ドイツの兵站ルート、鉄道を前もって調べ上げ、実際のノルマンディ上陸作戦以後は、連合軍とともに戦った。
彼らは命知らず、使命感に燃えて、ナチス支配下のフランスへ潜入し、レジスタンスのゲリラを訓練した。この特殊部隊は、一チームが三人で構成され(多くは英米仏)、必ず、その一人がフランス人だった。主力は英国から飛びだって、フランス各地へパラシュートで降下した。
かれらの活躍がなければパリ解放は明らかに遅れたという。しかし戦後、ジェドバラは戦争の英雄という表舞台からひっそりと消えてしまった。なぜなら、これは秘密軍事工作であり、この部隊からCIAの前身OSSが生まれ、成長し、かつフランスの秘密情報機関も、この体験と人脈を基に形成されてゆくとい戦後の情報戦争の裏面に直結するからだ。
著者のアーウィンは特殊部隊、とりわけグルーベレー経験者であり、1988年、コルビーCIA長官からの手紙を切っ掛けにして「ジェドバラ」の取材調査に乗り出すことになった。機密が公開されるタイミングでもあり、多くの関係者がまだ生きていた。コルビー自身もジェドバラ出身者だった。こんにちのグリーンベレーの原型は、このジェドバラにある、と著者は見ている。
その大活躍ぶりが、記述を通してよみがえった。通読後、もうひとつ違うことを考えた。
日本版ジェドバラのことである。「白団」は日本の軍人らが台湾へ秘かにわたり蒋介石軍の訓練にあたった。反対に八路軍に残って中国人民解放軍の空軍を育成した日本の軍人らもいた。
あるいは山西省で国民党軍と残り、八路軍と戦った部隊は、戦後左翼が歪曲した物語にした。前者は最近、門田隆将氏がノンフィクションに仕立て直した。
だが、知られざる事実がある。日本版ジェドバラは、朝鮮戦争前後、ひそかに戦争中の空軍パイロットら歴戦の強者が集められ、組織され、米軍機にこっそり搭乗し、朝鮮半島から旧満州の連絡拠点へパラシュートで降下した、命知らずの日本人らである。
この物語は高山正之氏が十年ほど前に『文藝春秋』本誌でアウトラインに触れた短編があるが、いまも全貌は謎に包まれている。いや、余談がすぎた。
杜父魚文庫
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