7686 引きこもり、風評被害をまき散らす菅首相 阿比留瑠比

さて、枝野幸男官房長官は昨日の記者会見で、菅直人首相が東電福島第1原発の避難・屋内退避区域について「10年、20年住めない」と発言したと紹介し、直後に撤回した松本健一内閣官房参与の解任を示唆しました。福島県飯舘村の村長は涙の抗議をしていましたし、ここは早めに問題を収めようと考えているのでしょう。
この件は、当初から松本氏の言っていることの主語がはっきりせず、現場で取材した後輩記者も「何度も確かめたのですが、どこまでが首相の言葉が定かでなく…」と報告してきました。それで、松本氏の発言メモをつくらせて精査していた段階で、通信社が「首相の発言」として配信した経緯があります。
松本氏は13日に菅首相と会った後、その内容を尋ねた記者団に以下のように語りました。頭脳明晰な人が必ずしも明快な話者ではない、という典型例のような確かにわかりにくい言葉であります。
松本氏 (前略)それと、今日、レベル7に引き上げられた原発の事故の問題。そうすると前々から予告というか、推測はされていたわけですけれども、2、30年に渡って原発がそこに在り続けるということで、たぶん収束するのにはうまくいっても2年ですから。普段通りに電気が動いていても冷却するのには2年かかる。そして困難があるとすると5年かかるということになると、それでその間放射能が漏れ続ける、あるいは土地が汚染され続けるということになると、復興という問題をそこで考えることはできないと。
今は人が立ち入っていけないような状態になっているわけですから、結果とするとそこの人々に当面戻ってくるということが何年もできないということですから。風がない時に一時荷物を取りに行くなんてことは許可されるでしょうけれどね、新しい都市を内陸部に作って、5万人とかそういう、10万人とかという規模でエコタウンを作るというその2つの復興の方向っていうのが大きく言ってあるだろうということを申し述べて、前回に行ったときもそのことは話していたんだけれども、より詳しく述べていた、ちょっと打ち合わせしてきたということになる。
(中略)冷却は電気が自動的にちゃんと動いていても一度止めると、2千度近くある温度だから、それを自然に落として止めていくというのはだいたい2年かかる。だから、これから電気を途中で停電があったりするとか、そういう形で色々苦労するとだいたい5年かかると言われている。
記者 これに対して総理は。
松本氏 それはよく分かっていた。だから、そうすると少なくとも2年とか5年とか、ちゃんと収まってもそういうことだし、それから土地の汚染とかそれから農作物の問題、それから生乳、原乳の問題ということもあって、周囲30キロまで避難の、自主避難を言っているということになってくると、これ原発周囲30キロあたりの、場合によっては飯舘村みたいの、30キロ以上のところもあるわけだが、そこに当面住めないだろうと。
これが10年住めないのか、20年住めないのかということになってくると、そこに再び住み続けるということがちょっと不可能になってくる。そういう人々を住まわせるような都市を、エコタウンというものを考えなくてはいけないということを(総理が)言っていた。その場合には、市の中心部は自然とか、ドイツの田園都市というふうなものを理想としながら、モデルとしながら、再建というものを考えていかなくてはならないというふうなことも言っていた。
記者 確認だが、「最悪2、30年住めない」ということと、「内陸部に都市をつくる」ということは総理が言ったのか。
松本氏 うーん、それは、前から私と話をしているので、その基本的な方向性というのは今日、初めて言ったわけではないので、総理の認識にもなっているし、私の方で申し出たということではなくて、それだけではなくて、総理は「その方向性でいいと思う」ということはもう2週間前に言っておられたわけなので、その上でもう少し精緻な案というものを考えると。(後略)
記者 確認だが、5年というのは、総理がそれぐらいの目途を考えていると。
松本氏 ただそれもね、総理自身はそういうことを考えているでしょうけども、今日の新聞でも報道されていますけども。東電に対していつ冷却が済むのかという、破損の状況から。あるいはその後の汚染水の問題とかいろいろ出てきていますので。そういう問題も含めて東電にいつあたりになったら収束するんだという形での報告をしろと、明確化しろと言っておられましたし。総理の頭の中ではそういうことを考えておられるけども、それを具体的にまだ、記者さんに報告するとか、そういうことにはならないだろうと思いますけどね。東電から報告があり、これでいいかという閣議で了承を得てということになるだろうと思いますけど。(了)
…この松本氏の言葉を読むと、菅首相がその場で実際にそう言ったのを松本氏がぼかしているだけにも思えるし、共通認識について松本氏が語っただけにも思えます。少なくとも、明確に菅首相が「言っていない」とは断言できません。通信社が「首相の言葉」としてストレートに配信したことは、私ならそうしないだろうとは思っても、それ自体間違いだとは言えません。
そんなこんなで、この発言の扱いをどうしようかと頭を悩ませていたところ、通信社の記事を見て慌てた菅首相から電話で訂正を求められた松本氏が再び記者団の前にやってきて、以下の追加のやりとりがありました。
松本氏 (冒頭間に合わずちょっと欠落)…首相自体はそういうことを全く言っておりません。私の推測で、今の地元の人々が、これは2、30年住めないんじゃないかなという風に考えてるだろうという風に、今までの、例えばチェルノブイリの例からすればそうであろうと、私が勝手に推測していることであって、首相がそういう風に言ったという風に、情報が伝わっているらしいんですね、外にね。それはちょっと、そうではありません。首相はそんなことは一言も言ってません。
記者 松本氏の推測だと
松本氏 普通の人々はそう考えてるだろうと。
記者 その話を総理にしたのは間違いないのか
松本氏 それはそうです。
記者 それとは別に、内陸部に土地を作るという話は、総理がしたのか
松本氏 いや、それは私がしたわけです。
記者 それに対して総理は結局何といったのか
松本氏 それは「その方向でいいんじゃないかな」ということは言ったことあります。ただ、その場合に、2、30年住めない、という判断ではないです。
記者 2、30年住めないということに対して総理は何と
松本氏 それは私の話を…
記者 「ふーん」と聞いただけですか
松本氏 そうです、そうです。
記者 「ドイツを参考に」というのは総理の発言か
松本氏 それは私の発言です。私がそういう風に提案してると。
記者 それに対して総理は
松本氏 それはいいな、という風には言ってましたけどね。
記者 総理の頭の中に、具体的な移動先の土地があるという話も、総理がしたわけではないのか
松本氏 したわけではないです。私の方で、こういう風な土地のあれもありますからという風なことで話しをしました。
記者 松本が具体的な土地名をサジェスチョンして、そうか、と
松本氏 そういうことですね。
記者 さっきの話だと、総理が自分で調べて、しかも「分かった」とおっしゃっていたと
松本氏 調べてって、具体的に全部、調べてってことですか?
記者 いや、松本さんがさっき言っていた
松本氏 それは、私のメモを見てですよ。私は物を言いに行く時には必ずメモを作ってあるわけです。そこに、具体的にこういう地名で、という風な形で言っているわけで。
記者 総理は「分かった」と?
松本氏 それは、話としては、言ってみれば「承った」というでしょうね。
記者 菅さんは主体的に何か話したのか。つまり、松本さんの報告に対し、菅はどういう話しを
松本氏 その復興の問題とすると、復旧じゃなくて復興の問題とすると、こういう風な2つの方向性がありますという形では言って。それは「よくわかった」と。「よくわかった」ということは、それを採るということではないと思います。
記者 外に出ているというのは、何か報道ベースで出ていると
松本氏 いや、その、分からないですけどね、ちょっと首相の方から。首相の方から来た。(電話があったのか?)まあ、そういうことですね。
記者 総理は「私はこんなことしゃべってると世の中に出ているが、こんなことしゃべってないぞ」と?
松本氏 原発のね、「2、30年人が住めなくなるだろう」という風なことは言ってないと。少なくとも首相の言葉としては言ってないということは、私の推測で普通の庶民はそう考えてると。チェルノブイリの例からすればね。そういう風な言い方をした。
記者 どっかのメディアに載ったからか
松本氏 いや、わかんないんです。そういう風に首相から来たから。(中略)…だからそれはその、そういう形で「どこに載ってたから」という形では(総理から)言われてませんけど。どこからかそういう話が伝わってきたんでしょうね。
記者 菅さんがこの方向性でいい、と言ってるのであれば、20、30キロ圏内に住めないという前提があって、内陸部に移転しないといけない…
松本氏 そういう風に考えてるかもしれないけど、2、30年は住めない、という風なことでは言ってない。
記者 じゃあ何と言ったのか
松本氏 それは、2、30年は住めないだろうというのは、普通の庶民の、チェルノブイリの経験からすれば、今、あれから40年たってるのかな、そういう状態で周り、住んでないわけですから。人は。そういう風に福島原発もレベル7になってしまえば、同じような推測をするに違いないという風に私は推測しますけど。それはそういう風に私が首相に言ったということです。(中略)
記者 菅さんは何か発言してないのか
松本氏 それはいくつね。アメリカの西海岸で津波が到達してるなんてことは…。理由がどういう形であるかは別にして、内陸部に新しいエコタウンを作るということについては、「それはそういう方向性だと思いますよ」という事は言った。だから、それが理由がそうであると、理由が2、30年住めないと言ったのは私の発言であって、総理はそこは言ってない。
記者 当面住めないと松本は言っていたが、これも松本発言か
松本氏 そうです。(総理は何も言ってないのか)それは聞いただけです。
記者 松本さんの話に総理はどう答えたのか
松本氏 総理は私と同じように推測しているのかもしれないけども、そこのところは総理の発言としては言ってないということです。
記者 総理は「ふーん」と聞いただけか
松本氏 そこのところはね。
記者 総理は「内陸に住まなきゃいけない」ということは言っていると
松本氏 それはそういう風に言ってましたけどね。(後略)
…なんかやはり歯切れの悪い部分が残りますね。菅首相や周囲は全部、松本氏のせいにしてトカゲの尻尾切りに走っていますが、果たして本当のところはどうだったのか。
ただ、問題は今回の真相がどうだったかということだけにあるのではないと考えます。ここからがむしろ本日のエントリの本題なのですが、菅首相は震災発生後、執務室に引きこもりがちとなり、側近や内閣官房参与、内閣特別顧問(笹森清・元連合会長)らとばかり会い、その人たちを通じて「風評被害」をまき散らしていることこそが、より大きな問題だと思うのです。
笹森氏は以前、菅首相と会った後で記者団に「首相は『最悪東日本はつぶれる』と言っていた」と明かしました。これについても菅首相は12日の記者会見で、そういう問題意識は実際あったが、直接そう言ったわけではないという趣旨のしどろもどろの答弁をしていました。
でも、こういう伝聞情報(実際正しい部分も多いはず)が独り歩きし、地域住民や国民全体の不安を煽り、風評被害を起こしているのは、菅首相の姿勢に問題があるのだと考えます。日々、時々刻々と移り変わる問題や情勢について、記者団のぶらさがり取材で自分の言葉を発信することはせず(震災以後、1度も受けていない)、側近たちに愚痴をこぼしてはそれが漏れ伝わるということを繰り返しているからです。
官邸スタッフによると、菅首相やその周囲は「ぶらさがり取材を受けても何もいいことはなかった」と言っているそうです。また、「菅首相は情報発信はしたいのだが、それは彼のイメージでは政府公報的なものになる」とのことでした。要は、自分と政府に都合のよく、ピーアールになることはしたいけれど、疑問をぶつけられたり、批判されたりするのは嫌だというだけの話です。
しかし、これは最高権力者の姿勢・態度としていかがなものでしょうか。歴代首相だって、マスコミにつきまとわれるのは嫌だっただろうことは間違いありませんが、それでも菅首相のように露骨に逃げはしませんでした。さすがは「高杉晋作の好きなところは逃げ足の早さ」と明言するだけのことはあります。それでいて、じゃあ、完全に沈黙しているかというと、どこまで本人の言葉か分からない形でおかしなことを発信し、みんなを混乱させる。本当に最低です。
「無能な味方は有能な敵より恐ろしい」と言いますが、その生ける実例が菅首相だと確信しています。
杜父魚文庫

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